短歌人(月例作品)

平成最後の 伊波虎英 手のひらにのる鏡餅へやに置き平成最後の年を迎へる 誕生日近づきくれば聞き分けの良くなる子どものやうな正恩(ジョンウン) 三が日凡々と過ぐ 火事、殺人、餅つまらせて死ぬ人のゐて 峻険な肢体めぐれる修験者の足音ならむ心搏動は た…

魚のやうに 伊波虎英 現実がひだり耳から押しよせる断線したるイヤホン越しに 誰かれを呪はぬためにくだらないテレビに日毎ばか笑ひする 菅野美穂の笑ひ袋が欲しわけもなき哀しみの日々につのりて わが指の魚のやうに冷たくて触れたきものに触れられぬ夜 透…

秋ゆゑ 伊波虎英 萎草(ぬえくさ)のメアリー・マッグレガー「SAYONARA」の心にうかびくるは秋ゆゑ 一週間に一人のペースで九人を殺めしものが手で顔覆ふ ハッシュタグで芋づる式にたぐらるる自殺志願の少女らのこゑ 人は見掛けによらぬものなりウェ…

白飯と納豆 伊波虎英 CMの30秒にうるうるとなるのは秋の所為にしておく 標準語の語りに違和感おぼえつつ「わろてんか」見る十月二日 公明党か共産党しか選択肢なき選挙区に住みて秋暮る 二枚とも〈希望〉と書くか〈絶望〉と書くか迷ひてこねる納豆 白飯の…

ハンドスピナー 伊波虎英 五十歳最初の顔を撮られたり免許更新の流れ作業に くるくるとハンドスピナー回されて流行りとなるはなんだかわかる ハンドスピナーくるくる回す快感を宇宙創りし神ももちたり 一位らしい戦ひをする広島に二位らしく戦ひ阪神負ける …

うなぎと風鈴 伊波虎英 「う」の付くもの食べたかどうか考へるうなぎを食はず土用丑の日 背後から不意に切られし無念さを旨い旨いと食ふ関東人 真つ向から切られて果てしふんぎりの良さを旨いと食ふ関西人 真つ向から切られてみたいどつちみち食はれるならば…

答へず 伊波虎英 「何歳まで生きれるんやろ」つぶやきと解釈をして答へず母に 方舟のごとくコンテナはろばろと火蟻を乗せて海原を来る 流離譚つむがれてゆく劣情の烈火のごとき女王蟻らの 大地震の前兆なるか鯰面(なまづづら)の女性議員ががなりて暴る バ…

アンチ巨人 伊波虎英 頑張つて頑張つてつひに休場せし稀勢の里、だから応援をする 「読売はとらへん。アンチ巨人やから(といふのは些細な理由)」 こんなにも勝てぬ巨人の哀れなり愉快このうへなきことなれど ジャイアンツ13連敗 戸惑ひはアンチ巨人のわれ…

ひよつこ 伊波虎英 中卒で働く少女におのが身を重ねる母と「ひよつこ」を見る 四時起床、五時から八時まで労働、朝食のあと再び労働 女子寮の夜は楽しもいつぺんに虫歯になつたと母は笑へり 「ひまはり」は前川清の歌声がよしとおもひて聴く「桜坂」 萎むの…

○ 伊波虎英 やかましき音をたてつつシェーバーはわが顔面を蹂躙したり 線香の灰のやうなる白きもの電気シェーバーに溜まるは哀し さういへば母が掃除をしてをりし父のシェーバーにも同じもの 死ぬときのための笑顔を準備せぬ少女ほほゑむ遺影の中に まだつぼ…

アスクルハズノ 伊波虎英 もの言はぬ生き物たちの目のごとくくらき宇宙にうかぶ惑星 過ぎてゆく惰性のままの日常に村上春樹の新作を買ふ ページ繰るわが指先は光年の距離ひきよせる快に満たさる 暴君の焚書のごとし巨大物流倉庫(アスクル)は十三日間燃えつ…

のどの仏へ 伊波虎英 湯たんぽがゆたんぽたんと騒ぎだすドナルド・トランプ就任の朝 ドーピングあからさまなるまま目指す金メダルのごときアメリカ・ファースト 乳牛(ちちうし)の吐く息しろき冬の朝つめたきままに牛乳を飲む 夏よりも滋養のおほき牛乳をの…

盟神探湯の湯 伊波虎英 ピザを届けるサンタクロースとすれちがふ家路をいそぐ独り法師(ぼつち)よ 滅多には飲まぬコーヒー、こめかみの酷く疼けばブラックで飲む 水道水の甘味を舌は感じたりブラックコーヒー飲み干してのち SMAPの解散よりも気がかりは…

二日目のカレー 伊波虎英 黒き雪、十一月の東京にふり積むといふデマを信じる とりどりの茸たつぷり入りたるカレーかすかに土の香りす 週五日通ふであらう朴槿恵(パククネ)が大衆食堂のおばちやんならば 老い人がハンドル握る自動車が突つ込むブレイクショ…

駝鳥の涙 伊波虎英 ハロウィンに馬鹿騒ぎするニッポンの心のゆとりがややうらやまし BGMで不安を煽り本日の悲惨なニュースを届けるテレビ 甘いといふ駝鳥の涙おもふとき人間の世の哀しみ増せり 花なんて咲かせたくない種のまま眠つてゐたいそんな寒さだ …

年末恒例題詠◇アスリートを詠む 大谷翔平(みづから)の投ずる球を大谷翔平(みづから)に打たるる夢のさめて馬肥ゆ 最高のパフォーマンスで感動させてくれる 一流のアスリートに、言葉でもってそう易々 と太刀打ちできるものじゃない。彼ら自体が 絵になる…

扉 伊波虎英 「短歌人」初掲載のわが歌を大森益雄(おほもり)さんが評してくれき 翌月も大森さんはわが歌を月評欄で触れてくれにき 松田聖子が唄つてゐたり薔薇のやうに咲いて桜のやうに散つてなんて 十月の真夏日といふ現実にカクカクくびををふる扇風機 …

愛のひとしづく鉛筆 伊波虎英 愛のひとしづく鉛筆ちびたまま四十年ほどわが家にあり サキちやんは言葉持たねどサキちやんはいつもほほ笑みサキちやんだつた 「みづいろの雨」とか「虹とスニーカーの頃」を聴きゐし少年はるか バファローズも弱し タイガース…

まなざしの先に 伊波虎英 骨董を集める金のなきわれは結社誌をよみ歌をあつめる 結社誌を繰りていくつか蛍火のごとく灯れる歌放ちやる 「短歌人」10月号に〈ポケモンGO〉いくつ潜みて人を待ちゐむ 一流の打者のこなしに皆がみな絶好球の初球見逃がす なぜ…

昭和のお母ちやん 伊波虎英 目が合はぬ選挙ポスターの政治家の見つめる先にあるのは何か 猛暑日の空の隆々たる雲は昭和のお母ちやんのやうなり 組事務所へトラックひとつ突つ込まむとバックでためらひなく突つ込みき ISのテロとやくざの抗争の恐怖の差異や…

折々のうた 伊波虎英 こんもりと阿蘇の米塚みどり濃き五月となれり暦めくれば いとけなき耳より入りしパルナスの歌がわが身の愁ひの核か 明るさでおほふ恋慕のいぢらしき大河ドラマの長澤まさみ なつかしき母の味するコロッケと惣菜屋にてゆくりなく遇ふ 半…

さびしき部屋に 伊波虎英 ドイツ人男性の名に由来するガーベラの紅き可憐を愛す 俗つぽさが気恥づかしくて言つてみるアフリカタンポポが好きなんだ ガーベラはさびしき部屋に一輪で飾らるべしと強くおもへり 両の手にそつとやさしく包(くる)まるるほどの小…

ワンダフル・デイ 伊波虎英 賞味期限が一日過ぎた牛乳を飲んで始める What a Wonderful day! 春だから腹が張るのか花霞む胃の腑に散らすこなのおくすり 水道の水をそそぎて牛乳のパックすすげば濁れる水よ 二度三度すすぐ牛乳パックから桜をこぼす手品師なら…

さんかんしをん 伊波虎英 揃(ぞ)ろ目に生まれ揃ろ目に死にしキェルケゴールの三十四歳、その五月闇 虐待のニュース途切れぬ日常にスザンヌ・ヴェガを思ひ出したり 緘黙の鴉のごときコーヒーを胃に沈めたき閏日の朝 暖房はこたつと湯たんぽのみなれば起き抜…

塩ひとつまみ 伊波虎英 ささやかな楽しみなれり夕刊に宇江佐真理の遺作を読むは 海原に塩ひとつまみ振るごとくわが詠むうたは雪より淡し 八日遅くわれより生れし清原和博(きよはら)のスターとなりて覚醒剤(シャブ)で捕まる 清原にありてわれには無き刺青…

あらたまの年 伊波虎英 去勢され町に放たれたる猫のさびしく鳴けるあらたまの年 野原など何処にもなくて野良猫と呼ばるるものは町をうろつく 野原など何処にもなくて野良犬と呼ばるるものは町から消えた あたりめで出汁をとりたるわが家の雑煮のもとは岡山に…

冬の心 伊波虎英 誰(た)そ我(われ)の誰(た)そ彼(がれ)どきの老い人にマイナンバー通知カードは届く ホットミルクココアの甘さ欲(ほつ)したる冬の心の在り処(ど)をおもふ 「安心してください」と言ふ芸人にとにかく明るい笑みを返しぬ しばらくの…

猫と回覧板 伊波虎英 野良猫の変死を告げて霜月の家をめぐれり回覧板は ふたたびをふたつに閉づる回覧板死後硬直の冷たさをもつ 頭(つむり)なき鴉ただよふ池の面(も)の浮寝の鳥のごとき日常 野の鳥に吹矢を射りて満たさるる心の洞(うろ)の嵩をおもひぬ…

DIES IRAE (8) 伊波虎英 秋冷の朝に触れたる一切は指よりわれを墓石となす 校庭に少年たちは崩れゆく未完成なるピラミッドとして 一面に咲くコスモスが一様に揺らぐ一億総活躍と 何の終はりをわれに告ぐるや校庭をはみだして鳴るチャイムの音は

警笛 伊波虎英 花紀京追悼特別番組に懐かしきひと映りては消ゆ 西瓜食めば祖母の思ほゆ病床に季節外れの西瓜を乞ひし 川蜷(かはにな)を腹の薬と食みてゐし祖母は胃がんで早死にしにき 濃き海のブルーの容器を見上げつつさす目薬の心地よきかな こほろぎの…