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土塊ゆつくられたれば土塊をみあげて良夜ひとりさやけし 松野欣幸
マンションの窓の灯りのとりどりに違いがありぬありて人住む 野中祥子
とりたててなにゆうこともなききょうをははのねむればおわりとすなり 朝生風子
高周波ミュージックの音わが脳の未踏山脈の渓谷あらふ 高島藍
張替えし障子に朝日差しくれば南天の影くきやかに映ゆ 滝川美智子
「星巴克(スターバックス)」テラス席より五星紅旗黄浦ほとりになびけるが見ゆ 村田耕司
ダンボール丸めた球を蹴り合って男が弾む印刷工場 田所勉
偽瞳孔とおもへどもなほカマキリに黒き瞳のありて親しも 梅田由紀子
版権がようやく解けてのびのびと想いを語る「星の王子さま」 藤倉和明
ジミンジミン晩夏の蝉も鳴いているどこへ流れる日本の明日は 石高久子
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◆<卓上噴水 119>より
「十月三日 金曜の夜」近藤かすみ
わが子欲しと手を尽くしての八年ののち授かりしひとり子われは
突然の頭痛が母を襲ひ来て三十五分の苦しみに死す
この冬は母の享年越えゆかむ賜物としてわが身養ひ
あなたの子でありし歳月ありがたう二十一年十ヶ月十一日
陽を避けて白いパラソルさしてゐたあなたとわたしいつか重なる