2007-01-01から1年間の記事一覧

極月や ノエル譚より陽炎(かぎろひ)のブルース・スプリングスティーンの詩(うた)を 伊波虎英 (☆12/25付「さるさる日記」参照)

少年に、少女に、明日もやつてくる父と母には訪れぬ朝 伊波虎英

亦逢はむと言ひて終りし様式の美しきかな亦逢はむ亦 酒井佑子 秋雨に言葉が重し頭(づ)が重し況して見出しに「制圧」の文字 春畑茜 乗りきたるひとが隣に腰かけてかすかに右に尾骨は傾ぐ 多田零 赤とんぼ唐辛子蜻蛉(コチュジャムジャリ)という国のとうが…

あほとばかの方言地図の境界を越えてつめたきとかいのことば 高澤志帆 クレオパトラカットの女医は聴診器くびかざりにして部屋に入り来る 宮本田鶴子 くはへ煙草の宮崎駿氏「脳みそに釣り糸を垂らす」と腕くみ目閉づ 下村由美子 この人の繰り言ききつつ老け…

ひざがしらに夏の光をあつめつつ自転車こぎゆく女がひとり 正藤義文 星ひとつわが眼に遠く潤むゆゑなほ親しかり老いゆくことも 尾本直子 朝の雨に濡れし墓石のうへに置く草まんじゆうの色やはらかし 洞口千恵 「ふたりならすべて美し」サトウハチロー夫妻の…

搾り器を粘り出でくる蜂蜜の垂れゆく蜜に気泡が光る 松岡建造 その一生に三万本の歯を使う命の束としてのホホジロ 勺禰子 新しく妻を迎えし画家の絵に女きわめて簡素に描(か)かる 越田慶子 死の床にあらざる我は夏の夜にカンガルー肉食ひてゐたり みろみ …

◆『高柳蕗子全歌集』 四冊の歌集とそれ以後の作品「漂流トラン プ」十八首をまとめた全歌集。冒頭八文字を 抜き出した「あいうえお順索引」と共に「キ ーワード索引」が付されているのが嬉しい。 花びらの浅いふくらみ泣きはらす赤いまぶたにたとえてはなら…

ちよろづの神去りゆかむ十月の緊急地震速報を俟(ま)つ われらには空席にしか見えぬ椅子だれも座れず奥処にありぬ あの世など信じぬけれどあの世など信じる人にわれは従ふ 三万を超ゆる自死者の突つ込んで突つ込んでゆけど崩れざるビル 禿(ち)び酷き硬貨…

おほくちの真神(まかみ)獣舎をひたぶるに回(めぐ)る安息日朝十時 伊波虎英 (☆11/25付「さるさる日記」参照)

カーテンの捩れにさへも人間の苦しむ様の顔のうかびく 大橋弘志 人が一人電車の中を縦に通り悲しみがあとに蹤いて行つた 酒井佑子 滑り台取り外されし公園から葡萄のような子らも消えたり 鶴田伊津 多摩川増水 かたくなに救助をこばむホームレスにしばしここ…

【松村正直さん選 (番組で紹介できなかった分)】 コンビニの斜め向ひのコンビニが影武者のごとき朝の国道 伊波虎英

孵りつつある卵食う民族とメニュウは告げぬ神話のように 森澤真理 スタンドに両手を上ぐる選手たち腋下あかるくひらかれてゐる 紺野裕子 平衡感覚すこしつかれて帰省せり火がよくつかぬ迎え火の藁 高澤志帆 思い出は写真どおりにおもいだす海を背にして笑顔…

おほいなる馬のお腹にゐるごとしもんもんと気温三十七度 洞口千恵 戻りくるノラがふぐりを捨げ出して踏んでもいいよとばかりの残暑 林とく子 くそつたれくそつたれくそつたれくそつたれ!四度叫べば哀願となる 黒田英雄 労働のさいごの力でシャッターをおろ…

草の匂ひつれて爺ちやん帰りくる藁しべに牛蒡抜けさうに括り 大畑敏子 叱つてもまだ笑ひよると婆さんが孫叱る声路地にひびけり 牛尾誠三 あきるほどながめてもなお微笑んで弥勒菩薩はただ美しく 戸川純子 赤信号を渡る女はおしなべてまずしきフォームにて走…

◆『流亡の神』 米口實歌集 「眩」を主宰している著者の三三七首から なる第四歌集。今年八十五歳になるというこ とで、おのずと老いや死をみつめる歌が多い。 白桃の和毛(にこげ)ひかれり老いびとの食みあましたる夢のごとくに 股関節を確めながら起きあが…

噴水のみづのじゆんくわんちちのみの父にあらざる我にしぶける 市境を長(をさ)の斑声(むらごゑ)越ゆるとき真暗き空にきざす陣痛 晩年の昭和天皇(ヒロヒト)のごとく三脚は闇に立ちゐきカメラを据ゑて ぼろ雑巾しぼるがごとく汗は出づ体脂肪率ひと桁なれ…

贋札によみがへりたる厩戸皇子にキスする老娼婦マリア 伊波虎英

助詞というやわき触手の生えて子のことばは世界つかみはじめる 鶴田伊津 どこまでも空を仰げる銅像に立て掛けられし箒を見たり 倉益敬 100ミリの豪雨の中を「川を見に」行かむこころのしたしかりけり 川本浩美 カール・ゴッチ死に小田実死に阿久悠死にわが晩…

ファールファールファール続いて少しずつこの椅子が空へのぼりつめてゆく 谷村はるか 草木の、土のかおりが心地よい雨後にんげんのわたしは臭い 大橋麻衣子 シャンプー台に微睡みおればかなかなの鳴くこえに似るタイマーのおと 平林文枝

仏蘭西の食材図鑑の野兎は魚のごとく眼をあけたまま 松野欣幸 「生き方は自分で決めるものなのよ」って塗り絵の好きなアンタに言われたくない 西尾睦恵 補聴器をつけて話せる母の声やさしくなりて夏は来にけり 柊明日香 緑濃き風が入り来る床の間の夏が好き…

背泳は旅人のごとせつなくて天井の染み指さしゆけり 佐藤あきら子 人形のごとく立ちをり菓子箱の積まるる売場にジェンキンス氏は 小出千歳 一通のメール欲りつつ夜の更けを団十郎の目ん玉を観つ 弘井文子 迷うことまだ知らざりし少年は柔らかき髪風に揺らせ…

◆『亡羊』 奥田亡羊歌集 「心の花」所属で、二〇〇五年に「短歌研 究新人賞」を受賞した著者の第一歌集。三十 二歳から三十九歳の時期の三四〇首を収める。 言葉にはならぬ思いを聞き役のアナウンサーがすらすらと言う カメラ越しの人々の<思い>は、ややも…

のやうなる夕焼けに何度染まらば滅びなむ日本 羽根よ羽根(ヨハネよ何処(いづこ))大風車発電塔よ洗礼者なれ 四十二年の寿命であらばあさひるよるよろこんで食ぶ中国産を 「鳥渡(ちよつと)、鳥渡(ちよつと)、鳥渡(ちよつと)」のギャグが舞ひやがて鳥…

すそ跳ねを気にしながらに傘閉づる乙女、見返り阿弥陀のごとし さすべえ > に傘ひらきたる自転車のおばちやん誰もだあれも翔ばず 伊波虎英 *題「雨」 *歌会詠草一覧は、こちら。↓ http://www.tankajin.com/utakai/utakai5/utakai5.htm

回顧される生とはいかに サルバドール・ダリ口髭の極端な反り 生沼義朗 午前五時のTVに美女四人ありて新作菓子を食ふ怖ろしも 酒井佑子 おわらひのビデオ集めを趣味として次女は笑はぬをなごなりけり 大橋弘志 母われを忘れて遊ぶ子の背に銀の背びれの揺れ…

駐輪場の錆のうきたる長き塀この世は辛くて寂しいところ 矢野千恵子 操縦技優秀士官皆散華着陸下手吾八十四歳 上原元 海に向くパラソルひとつ砂の上にあを濃き水のごとき影置く 下村由美子 ありえない論理で姪はわれに勝つモハメド・アリ戦の猪木のやうに 高…

犬の目から見れば人間みな名無し名無しの人が犬の名を呼ぶ 生野檀 キリストの言葉告げたる伝道者インターホンに顔を見せざり 森脇せい子 穴のぶん軽くなりたる切符もち階くだりゆく青梅雨の午後 洞口千恵 従業員と店主が深く頭下げ東北書店は店を閉じたり 助…

六月の雨に濡れたり パチンコの巨大モニターだけが饒舌 竹田正史 越え隔る山河呼ぶごと病む床に父は唄ひき長野県歌を 三良富士子 モネの絵は少し離れて眺むべしセーヌの川面の揺らぎも見ゆる 阿萬美奈子 お金はたーんとあると言ふときのたーんといふ響きが好…

「空色の日除け」若尾美智子 オムレツを食べながら読む朝刊になめくじの記事ずるずるつづく ほの暗きマンション街に空色の日除けはためく花店があり 旅行鳩五十億羽が乱獲で消えたる空は広くもあらず 「をりをり」山寺修象 カンボジアのノートのうちの一冊は…

◆『夏桜』 中野昭子歌集 もち重りするにはするが空洞で南瓜のごとき六十歳(ろくじふ)すぎぬ 二〇〇〇年夏から二〇〇六年夏までの著者 六十歳前後の時期の作品で編まれた第四歌集。 「人並み程度にいろいろなことがあった。」と いう、高齢の親、夫、娘、孫…