2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

子の指の跡の残りしどろだんご陽光のなか乾きてゆきぬ 鶴田伊津 領収書の束が結局私を現すものと成りいるあわれ 生沼義朗 手ざはりのざらつく写真一枚をアルバムと呼ぶ砂より拾ふ 西恕Wみどり 石鳥居くぐればのぼる石段のうへ春分の日の丸垂るる 川本浩美 最…

対岸に乳歯のような灯はともり河のいちばん優しい時刻 森澤真理 夜の雨屋根を叩けば耳ふたつ在ること不意に罪人(つみびと)めきぬ 守谷茂泰 秒針が四十三秒でつまづいてのぼりきれないやうな静寂だ 矢野佳津 きみの手にいまだ萎れぬ鬱金香わが手にあればい…

たつぷりとインクつまれど字の書けぬボールペンのやうな人に会ひました 川井怜子 川の字に寝たる記憶のごと風に触れあいており家族のパジャマ 前田靖子 間違えて乗りたるバスに揺られつつ虹たつ橋のいくつかを過ぐ 柊明日香 真夜中に鋭くひびくベルの音途切…

ぽっかりと奈落が口を開けている闇夜木蓮ましろに咲けば 立原みどり 秒針がチック、チックと動くたび時は形となりて現る 四屋うめ 死者生者ともに澄みゆく花のころひと多き二年坂を歩きぬ 関口博美 解剖は水平に置かれ解体は吊されてゆく死の重量に 服部文子…

「清徳丸」谷村はるか 久保山さん久保山さんとわが祖母は縁者のように日々口にする 石本隆一 吉清(きちせい)さん、と耳が聴くとき久保山さん久保山さんと呼ぶ人の声 それぞれの船にそれぞれ海へ出る理由 人生は演習じゃない 航海長当直士官水雷長艦長海士…

幸田露伴の喜寿の祝ひに招かれし茂吉の礼状一階に無く によつぽりと黒々なれる鬼貫の句の一行がわがまへに立つ 芥川、露伴、漱石それぞれの色紙の文字のしづまりを過ぐ われのみが部屋に居てみる四つ折の筋目のこれる用箋二葉 用箋の罫を無視せし文字ぴたり…