2011-01-01から1年間の記事一覧

ああ、なつて仕舞うた 伊波虎英 洗面台の蛇口ひねればなまぬるきねぼけた水がでてくる朝(あした) しやばしやばと洗へばやうやくモンタージュ写真のやうな顔でなくなる 雪安居、夏安居いく度もくりかへし大僧正となりて蟬鳴く ロト6の選択数字になき数(か…

トラックが来て集めゆく空壜のよくひびくなり秋の路上に 木曽陽子 離れ住む子供らの名の書かれたる表札はこの台風に耐ふ 杉山春代 いちにんの看視員居りいちにんの鑑賞者われ静もりたもつ 小宮山有子 スリッパに白ソックスの女の足つつつとすすみ来昭和の玄…

同窓会の終りにちかく今年亡き友へ盆踊りの輪をつくりたり 佐々木和彦 送り出す30箱に手を振りぬおそらく5箱程度が戻る 津和歌子 木犀を咲かせすぎると秋風はこれ以上ないほど透きとおる エリ エスカレーターふたつ乗りつぎ食物におほはれつくす地底に着きぬ…

箪笥の環(くわん)ことりと鳴りぬ稲刈りを了へて眠りに入りゆく村に 関口博美 曼珠沙華の茎くるくると転(まろ)ばせば華はゆゆしき銀河系なす 高島藍 幼稚園受験願書にひろびろと長所欄あり花の種をまく 春野りりん ご一行バス降りたれば別れたり男便所と…

不意に降るきつねの雨はやさしくて母に似た手を頭上にかざす 今井ゆきこ 母とわれ小さき諍ひせしのちに出来あがりたる今宵の夕餉 山田政代 ヒトの足年取りゆけばさぼるのでときどき一本足で立たせる 西尾正美 世界から拒絶をされているような気がしてすこし…

発電はせねどなほ発電所とふ立地の村は息をひそめて 関口博美 放射能米をつくれぬ農の人つばめのためと田に水張りぬ 中田公子 焼きただれし線路も石も取り除き仮設の店への近道作れり 阿部凞子 除染効果は薄しといえどフクシマのひまわりの花健気に咲けり 菅…

おはぎ 伊波虎英 「御座候」の餡買ひ来たりたんまりとおはぎを作つてくるる母ゐて コンソメのスープ飲みつつお彼岸のおはぎ五つを昼餉としたり 吟遊詩人(トルバドゥール)となりて去りゆくわが影にわかれを告ぐる秋の夕暮れ やや硬くなりしおはぎをきつねう…

もし神のあらばその愛、はつかなる塩大福のしほの味はひ 伊波虎英 *題「自由題」(2011.10.23〜11.25) *歌会詠草一覧(31首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/236035407.html

『惜別』に太宰治が描きたる仙台のまちは池のごとしも 中井守恵 計画的避難区域の浪江町にピーピーと線量計が哭く 嫌だと 大森益雄 母たちは lemming(たびねずみ)となり墜ちゆくや子らのためにと被ばくを避けて 黒田英雄 日本はひとつと皆がいふけれどいは…

那智滝の朝の響きの頭に入りてひと日を垂るる梅雨のをはりに 大谷雅彦 蒲公英の綿毛は夜も飛びゆくや眠りに入らむとするとき思ふ 原田千万 たたみたる四枚の翅ひらくとき黒やんまの尻ややも上がりぬ 杉山春代 紙コップの糸電話から聞こえくる秘密のはなしは…

カフェラテに更にミルクを入れて飲む もうなにもかも無茶苦茶になれ 森直幹 終電に遅れぬように店を出る 世界は僕のためになどない 森直幹 新しき本のカバーにとりあえず<ヤマダ電機>のちらしを選ぶ 若尾美智子 おはやうと手を振るメールのお返しに写して…

まつ黄色に家を塗りたる人のこころ知らざるも道の案内に便利す 吉岡馨 わが視野に嬉々とあらはるる蚊のかげの濃きときのあり薄きときあり 小出千歳 死と生のあはひにしばしたゆたひぬ蚊帳のなかにて目覚むる朝は 関口博美 ながく触れぬ琉球三線かき鳴らすし…

たとえたら例はたくさんあがるけど、君の瞳は真っ直ぐ過ぎる 野栄悠樹 父の名をカタカナで書く女生徒の右耳たぶのピアスはハアト 桑原憂太郎 ハンカチを口にくはへて手を洗ひその濡れた手でポケットさぐる 西尾正美 カツゼツの悪い車掌の放送で電車動かぬ理…

シャボンの玉 伊波虎英 原爆忌まぢかき真昼、乙女らの日傘は黒き雨傘となる 手を洗ふ無心なる時たまさかにシャボンの玉のひとつ生れたり 中年の昼寝危ふし目覚むれば剃刀の刃の錆びし臭ひす 水羊羹の喉ごしのごとやり過ごす日常の先に晩年が見ゆ 仰向けに転…

Tシャツで殿下を迎へる瞬間がわが人生に用意されてた 菅野友紀 手動式鉛筆削りの存在が尊く見ゆるあほらし節電 斎藤典子 電力が足りなくなると言ううちに日本が多分なくなるだろう 若尾美智子 生き残る遊びせよとやうつせみの身に覚えなきこの罰げーむ 武藤…

紺深き今日の朝顔六つあり真先に見しは私であれ 林悠子 ジュンク堂池袋店に「塔」ありて「短歌人」より熱心に読む 山寺修象 逃げ水が舗道まなかに輝いて、あれはクリスチャンセンの足跡 生沼義朗 ただひとり生き残りゐる者のごと午前四時半のかなかなを聞く …

自販機のひかりのなかにうつくしく煙草がならぶこのうえもなく 内山晶太 シャッターの目立つ駅前商店街 虚ろな眼をした鯛焼き並ぶ 森直幹 それぞれの抱ける闇にともされし線香花火の火の玉見つむ 下村由美子 語りては元にもどりて繰り返すオルゴールに似る母…

「暑うて暑うて死んでしまう」と言う夫よ死ぬるもんなら死んでみせてよ 山本照子 もぎ立てのトマトとともに手の平に太陽の熱じわりとつかむ 中島敦子 春川ますみの乳房のやうに縦に揺れ巨きあぢさゐ颱風告げる 黒田英雄 絶筆となりし歌まで二頁となりて表紙…

ついわらうテレビの中の空回り君も君もただ一生懸命 古賀大介 シャボン玉飛んで来たるにだれもいず夕陽の中を歩みいるとき 鳥山繁之 あさなさな廊下に母のゆまり跡さみしきもののごとくに残りぬ たしろゆう 左眼の下にほくろがあることをはじめて知りぬ遺影…

人の訃を知らされている留守電にこんなさびしきことがあろうか 高野裕子 口笛を吹きて仲間を集めむかリヴァー・フェニックスはもうゐないけど 大越泉 雲はもう形を変へた妹が母に優しくしてゐるだらう 大越泉 (2012.1.20.記)

蝸牛鳴く 伊波虎英 お好み焼き(おこのみ)のソースの香りかぎながら踏切の棒あがるのを待つ かたつむり張り付くごとしビル壁にあまたあまたの室外機鳴く 鉄板の上でソースがはねるごと「暑い、暑い」と言へり誰しも 夕焼けがお好み焼き(おこのみ)ソースの…

原爆忌まぢかき真昼、乙女らの日傘は黒き雨傘となる 伊波虎英 *題「色彩を詠み込む」(2011.8.25〜9.25) *歌会詠草一覧(34首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/226953332.html

化粧塩振りたる指の所在なさ友と呼ぶべき一人はあるか 森澤真理 前の歯の二本抜けたる子の笑みを思ひ浮かべてキー叩きたり 宇田川寛之 子育てがいま楽しいと志野いへばわれのこころはしばらく和ぎぬ 小池光 今日もわれの何かが一つ終わりゆくもともと何もな…

老いはいつも初体験で若作りになっていないか不安にもなる 高山雪恵 雨の日も朝は明るいベランダに立ってしばらくふやけてしまう 猪幸絵 いま、いま、いま、じしんがくるかもしれぬのになにかをしゃべるみんなはすごい 生野檀 (2012.1.19.記)

旅に出る後めたさを覆うごとおでんの匂い部屋に満ちくる 林むつ子 らんちうの餌に染ませて与へると冷蔵庫にはヤクルト十本 吉岡馨 砂あらしの中から聞こえてくる声を神託とする占いがある 天野慶 舌を突きたてて炎えぬるビル群のほてりをさませ白き月光 松野…

前に不か後ろに福かぼんやりとあなたの名にある幸を見つめる 工藤足知 鍋の柄がグラつき出して手元から何かが揺らぐ十八年目 中野順子 鴻毛のやうな情報もてあそびひらりひらりとうごく指先 伊東一如 レモン二個夜のテーブルに寄り添いて互の光浴びて輝く 北…

義援金送付しつつも被災してあの野郎くたばってろと願う 木嶋章夫 街に古り馴染みし東京タワーなれ地震(なゐ)のいたみを分けて曲がりぬ 蒔田さくら子 一葉一葉真面目に光を浴びしゆゑセシウム検出されたる茶の葉 管野友紀 着なれない作業服着て言ひ慣れな…

きみは向日葵、われは菜の花 伊波虎英 六月の雨にふくらむ人たちが浮雲となり地下街をゆく 心斎橋筋商店街を進めども進めども中国語ひとつも聞かず 六月といふに猛暑日、神もまた原発推進派か 葉風恋ふ 原子炉の火を遠まきに呼吸するきみは向日葵われは菜の…

森を透きて遠き水べの明かりつつ犬と人行く世は事もなし 酒井佑子 第一徴兵保険が東邦生命となりAIGエジソン生命保険となりぬ 室井忠雄 いちにちの一番大事なことを言うとき子の唇(くち)は少しとんがる 鶴田伊津 近代の歌人を貧乏と金持に分け、貧乏に…

波照間産黒糖あまみふかくして恋おほらかに育つ地の味 竹浦道子 離れへの歩幅に合わぬ飛石をゆくとき足よりゆうぐれはくる 平林文枝 水を足す硯にひかり砕けいつ 五月晴れなる六番札所 蜂須賀裕子 お父さん・親爺・じいじい、こもごもに死にゆくあなたを引き…