2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

スキージャンプの選手はさほどジャンプ力を必要としないことがわかりぬ 室井忠雄 匿しもつ固き冬の芽 土双つ重ねてすなはち圭也にあれば 柚木圭也 静けさのなかに沈みぬ君も子もいなければただの箱だ、この家 鶴田伊津 死体あるところに赤い旗が立つ炎のよう…

ねこ捏ねてねこ裏返る日曜の午前をあそび鳥のこえ降る 内山晶太 冬至なり部屋に射し入る赤き陽を負いて明るき短歌を詠まん 畑中郁子 成犬の躾を頼みに行くような心地でメンタルクリニック訪う 生野檀 極月の夕べひとりの紳士来て明治牛乳の試飲を勧む 助川と…

向かい合いガラス戸拭くときお互いに見て見ぬふりに老いを言わざり 滝川美智子 ポケットティッシュを百個もらひぬシーメンスの補聴器買ひし抽選券で 荒垣章子 三十代六人集ふ既婚一人バツイチふたり子どもはひとり 鎌田章子 いつまでも子どものような夫がい…

駅に着く電車の窓はくもりゐて深く息して人を吐き出す 山根洋子 答へなきうつつに迷ひ明快な分量に焼くパウンドケーキ 松岡圭子 幸(さち)ゆえに笑むのかえむからしあわせか体感温度はいつでも春日 今井ゆきこ 辛口の物言い増える年の瀬の松前漬けは薄味に…

初昔(はつむかし) 伊波虎英 愛らしき鳥のさへづり聞こえれば歩は止めざれどめぐり見回す いづこにも小鳥は居らず前をゆく老女がひとり間遠に見ゆる 愛らしくさへづる鳥の音(ね)を立てて軋むカートを押しゆく老女 震災は詩を殺したと思ひつつ紅白歌合戦を…