2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

日常はあやうい日々の連なりで振り向くともうそこにない橋 天野慶 極太のマジックインキで数本の白髪をなぞり都心へ出向く 生野檀 身篭ってついに悲しくなることのああ少年にはなれなかったよ 猪幸絵 泡立ちがウリですという石鹸に溺れるように顔を埋める 上…

木香薔薇かきねにあふれははそはの母はねぶりをひたすらねぶる 佐々木通代 牛のにほひ沁むゆふばえの道尽きて太平洋はここにはじまる 金沢早苗 「佐渡郷土かるた有ります」謎のごと貼られてゐたる一軒の家 小池光 ひそやかに逢魔が時は降りてくる団地23号棟…

自販機に大人とわかつてもらふため母は写真を撮らねばならぬ 高澤志帆 鳥が地を見渡すように未来より誰かが我を見ている日暮れ 守谷茂泰 この我を捕へることなく晩春のミニパトカーは曲がりて行きぬ 田中浩 一分が速く過ぎゆく買い換えて小さき目覚まし時計…

何となく書棚より取る『冷血』にわれの妬心は衰えず在り 久保寛容 心底人が恐ろしと思ふ夜ぞ セコムも人につながりてゐる 森脇せい子 ひとところこゑ強むればそのやうにimagineと言ふ生徒らをかし 野村裕心 置き場所をあれこれ変へぬといふ事が老いの哲学め…

地下へゆくエスカレーター長ければ時計の針がにはかに狂ふ 関口博美 羊カンを六つに切れば切り口は五つか十かないともいへるのか 西尾正美 間口狭き刃物屋に並ぶ包丁の刃渡りは奥へゆくほど長し 吉岡馨 寄り掛からずシャンと自分で立ちなさい 週に一度はファ…

厚切りのカステラ食めば思ほゆるかの北原白秋(はくしう)の触れしやは肌 こッ斑(ぱん)の消えては出づるむず痒きわが身は何に疲弊してゐる しろがねの雨ふる夕べ バリカンは老いたる神の頭(づ)を刈りてゐむ Ave Maria 踏絵のマリアふむやうに雨は恥(や…