2014-01-01から1年間の記事一覧

秋のうた 伊波虎英 店先の新刊本にここちよき沈黙として文字は収まる どこからか香る金木犀ほどに存在感なき日本の力士 逸ノ城(イチンノロブ)が四股ふめば土俵に薫るモンゴルの風 モンゴルの大草原をまろびゆく風 ブロノンチイ、グヤホンタルア 戦力外通告…

神の寝息 伊波虎英 二学期がもうぢき始まる少年の自死へのカウントダウンが始まる すれちがふとき傾きておのづから意思もつごとく傘は進みぬ ひと恋し。火とぼし頃の戎橋、綾瀬はるかを見上げて渡る <ひとつぶ300メートル>看板のランナー永遠(とは)に…

ア・デイ・イン・ザ・ライフ 伊波虎英 寝苦しき夜にひらけば『江戸職人綺譚』に舞ひぬ一会の雪は 扇風機のかぜに時折めくれむと暦の海はさざ波立ちぬ わが夢に降りし六花のしづけさに日の照る朝の道は濡れたり 一杯の牛乳を飲むけさ生(あ)れし蟬けふ果つる…

鍵穴 伊波虎英 「目覚めよと呼ぶ声あり」のオルガンが礼拝堂へ誘(いざな)ひし三年 鍵穴のどこにもあらずポケットの鍵は小銭を穿たむと鳴る 大阪は神のすむ場所、吉本に桑原和男が元気なかぎり わが首のうへのみ晒し理髪師は白雨のごとく白髪(しらが)を降…

馬馬虎虎 伊波虎英 江戸の世の阿片にまつはる物語よみゐたるときASKAの逮捕 蠟燭にたとへられたる陳腐さの命を生きることもむづかし プラットホームの下に転がる空き缶の麒麟に星を見せてやりたい バラの香の渦巻きをもて蚊を殺す馬馬虎虎(マーマーフー…

◆ シフォンケーキと万年筆 伊波虎英 ある小説を読んでいる時のこと。蚕の繭を茹でる生臭い匂いの描写 が出て来て、別にその文章自体はどうってことはないし、僕自身も 一度も繭を茹でる匂いを嗅いだことはないのに、なぜかその生臭い 匂いを非常にリアルに感…

五月のうた 伊波虎英 五月とは街ゆくひとが誰もみな青眼をして迎ふる季節 精神がでぃらんでゅらんと移動する五月の風にほぐされながら 壺中の天めがけビルから飛び降りる勇気はなくてスマホをのぞく 猫の目と犬の目のひと語らへり小鳥さへづる音色をさせて …

折々のうた 伊波虎英 「茹で損なひの枝豆みたい」といふ比喩のいかにも江戸に居さうな男 片つ端から山本周五郎を読みかへす気力なきこと哀しみのひとつ さ、くら、さく来世の花を天守より見おろしゐたる秀吉とわれ 生活が顔に出でたる美人にはなかなか会へぬ…

冬の感傷 伊波虎英 氷上に揺れつつ灯るいつぽんの和蠟燭かな、ああ浅田真央 小学生の頃をしみじみ思ひだす朱川湊人の本にひたれば 車庫の上(へ)に共同物干し台ありき冬の真昼の満艦飾よ 洗濯物取り込まるればプロレスのリングとなりし物干し台は 「珈琲の…

冬の星 伊波虎英 歌ひとつふたつノートに書きうつす冬の星座を匿ふやうに 児に神の宿りてをれば母が児を詠みたる歌も神を宿せり ささやかな死後の名声乞ふ自称詩人がつむぐ繭、夢、冥途 岡田栄悟の名は忘れても佐村河内守といふ名は忘れぬだらう 刹那、燃え…

新年のうた 伊波虎英 去年今年貫く棒の錆びたるを感じながらに新年迎ふ せめてもの慰めなるか新年は暗き夜から常にはじまる 三キロのダンベルを手に三時間あまりを立ちて過ぐる新年 ペットボトルに去年だれかが汲みくれし天然水を新年に飲む 元日の朝もラジ…

歌ひとつふたつノートに書きうつす冬の星座を匿ふやうに 伊波虎英 *題「冬」(2014.1.25〜2.28) *歌会詠草一覧(22首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/389971272.html *今回は選歌があり(ひとり3首)、僕の歌は、 …

折々のうた 伊波虎英 大盛りのパスタをもみぢ山となすトマトソースをたつぷりかけて ホームドラマの流行らぬ今を独り身のわれは癒さるホームドラマに やがて散るために染まりし紅葉かとおもへば侘し美魔女といふは テロップに父とおなじき名の端役見つけて母…

冬へつまぐる 伊波虎英 立冬が近づきたれば身に沁みるうどんのつゆが恋しくなれり 芝海老のふりしたバナメイエビ達が待合せするホテルのロビー 柔らかさ求めるはてに牛脂注入加工肉へと至りしわれら 人間を遂にやめたる人間が街をさまよふ猿のすがたで なに…