2016-01-01から1年間の記事一覧

年末恒例題詠◇アスリートを詠む 大谷翔平(みづから)の投ずる球を大谷翔平(みづから)に打たるる夢のさめて馬肥ゆ 最高のパフォーマンスで感動させてくれる 一流のアスリートに、言葉でもってそう易々 と太刀打ちできるものじゃない。彼ら自体が 絵になる…

扉 伊波虎英 「短歌人」初掲載のわが歌を大森益雄(おほもり)さんが評してくれき 翌月も大森さんはわが歌を月評欄で触れてくれにき 松田聖子が唄つてゐたり薔薇のやうに咲いて桜のやうに散つてなんて 十月の真夏日といふ現実にカクカクくびををふる扇風機 …

愛のひとしづく鉛筆 伊波虎英 愛のひとしづく鉛筆ちびたまま四十年ほどわが家にあり サキちやんは言葉持たねどサキちやんはいつもほほ笑みサキちやんだつた 「みづいろの雨」とか「虹とスニーカーの頃」を聴きゐし少年はるか バファローズも弱し タイガース…

まなざしの先に 伊波虎英 骨董を集める金のなきわれは結社誌をよみ歌をあつめる 結社誌を繰りていくつか蛍火のごとく灯れる歌放ちやる 「短歌人」10月号に〈ポケモンGO〉いくつ潜みて人を待ちゐむ 一流の打者のこなしに皆がみな絶好球の初球見逃がす なぜ…

昭和のお母ちやん 伊波虎英 目が合はぬ選挙ポスターの政治家の見つめる先にあるのは何か 猛暑日の空の隆々たる雲は昭和のお母ちやんのやうなり 組事務所へトラックひとつ突つ込まむとバックでためらひなく突つ込みき ISのテロとやくざの抗争の恐怖の差異や…

折々のうた 伊波虎英 こんもりと阿蘇の米塚みどり濃き五月となれり暦めくれば いとけなき耳より入りしパルナスの歌がわが身の愁ひの核か 明るさでおほふ恋慕のいぢらしき大河ドラマの長澤まさみ なつかしき母の味するコロッケと惣菜屋にてゆくりなく遇ふ 半…

さびしき部屋に 伊波虎英 ドイツ人男性の名に由来するガーベラの紅き可憐を愛す 俗つぽさが気恥づかしくて言つてみるアフリカタンポポが好きなんだ ガーベラはさびしき部屋に一輪で飾らるべしと強くおもへり 両の手にそつとやさしく包(くる)まるるほどの小…

ワンダフル・デイ 伊波虎英 賞味期限が一日過ぎた牛乳を飲んで始める What a Wonderful day! 春だから腹が張るのか花霞む胃の腑に散らすこなのおくすり 水道の水をそそぎて牛乳のパックすすげば濁れる水よ 二度三度すすぐ牛乳パックから桜をこぼす手品師なら…

さんかんしをん 伊波虎英 揃(ぞ)ろ目に生まれ揃ろ目に死にしキェルケゴールの三十四歳、その五月闇 虐待のニュース途切れぬ日常にスザンヌ・ヴェガを思ひ出したり 緘黙の鴉のごときコーヒーを胃に沈めたき閏日の朝 暖房はこたつと湯たんぽのみなれば起き抜…

塩ひとつまみ 伊波虎英 ささやかな楽しみなれり夕刊に宇江佐真理の遺作を読むは 海原に塩ひとつまみ振るごとくわが詠むうたは雪より淡し 八日遅くわれより生れし清原和博(きよはら)のスターとなりて覚醒剤(シャブ)で捕まる 清原にありてわれには無き刺青…

あらたまの年 伊波虎英 去勢され町に放たれたる猫のさびしく鳴けるあらたまの年 野原など何処にもなくて野良猫と呼ばるるものは町をうろつく 野原など何処にもなくて野良犬と呼ばるるものは町から消えた あたりめで出汁をとりたるわが家の雑煮のもとは岡山に…

冬の心 伊波虎英 誰(た)そ我(われ)の誰(た)そ彼(がれ)どきの老い人にマイナンバー通知カードは届く ホットミルクココアの甘さ欲(ほつ)したる冬の心の在り処(ど)をおもふ 「安心してください」と言ふ芸人にとにかく明るい笑みを返しぬ しばらくの…

猫と回覧板 伊波虎英 野良猫の変死を告げて霜月の家をめぐれり回覧板は ふたたびをふたつに閉づる回覧板死後硬直の冷たさをもつ 頭(つむり)なき鴉ただよふ池の面(も)の浮寝の鳥のごとき日常 野の鳥に吹矢を射りて満たさるる心の洞(うろ)の嵩をおもひぬ…