2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ふる寺のきざはしに身を平(たひら)めて頬に木目の近づくうれし 酒井佑子 ひっくるげっちょに脱ぐなと母に言われたるワイシャツを脱ぐひっくるげっちょに 室井忠雄 手のひらに載るごと小さき老媼の道ゆく見れば母と思ひぬ 大橋弘志 こんなにも痩せたる猫の…

今からはもう染まらない今からじゃ染みは落ちない中年は布 谷村はるか 恵方巻(ゑはうまき)ものも言はずに頬張れるこの充実を卑弥呼は知らず 和田沙都子 土地ごとにちがう神話を守るらしゴミ置き場には鍵がかけられ 滝田恵水 冬雲を目で追うことも旅に似て…

莢豆のすぢとるゆふべしろたへのボーンチャイナに春ふとりゆく 弘井文子 かしゆーなつつあまやかにしてヒンドゥーの女神の腰のくびれおもほゆ 高島藍 薪を割る台(うてな)にあまたの傷がありされどいづれも遺恨なき傷 佐々木和彦 火鼠のかはごろも獲(と)…

春のねこ若草の上にすわりいてしっぽの先まで春のねこなり 田平子 「鬼は外」撒いても届かぬ吾の傍に鬼は近づき両手広げる 佐野良子 こと切れし病者に義歯をはめやれば張りの豊けき仏となりぬ 松岡建造 マニキュアの瓶ならべればつぎつぎに極楽鳥となって飛…

【70周年記念特別号「文学の一節に魅かれて」3首】 簾内敬司 「影踏み」 伊波虎英 残照を容れてまばゆき窪に立つをとこの影の焦(こが)るる海彼 冷えきつた薄き蒲団にすつぽりと震へる影をしまひて眠る 咲き誇る色とりどりの花ばなの影したたらむ「涙ぐむ…

とふ西諺さあり 短歌も然り 煮詰まりてあんことなりしぜんざいは成人の日のトーストの上(へ)に かき曇る天に日輪さがしをりかつて胎児でありし日の眼で 「樽ドル」と呼ばるる乙女のその腹でディオゲネスはもひなたぼこする マスクしてくもる眼鏡に街灯は不…