2010-01-01から1年間の記事一覧

さしあたり夜、この不安朝はまた別の不安があるのだきっと 青柳守音 「放浪」の旅などあらず線路づたひにけふは三駅と決めて歩きぬ 水島和夫 鳴りひびく六時の寺の鐘のおと空は大きな声帯である 真木勉 曼荼羅にかくも似てゆく新人事相関図かな吾(あ)にも…

木犀のかをりは反魂香ならむ朝の境内にあまねくにほふ 洞口千恵 歌集一冊書き写したるノートには三年前の力ある文字 下村由美子 月は何のために出ていた 少年を殺めたひとりも照らしきれずに 津和歌子 図書館の本に引かれた傍線を消す引くべきはここじゃない…

ラベンダーのほそき花穂を摘みゆけばにおいぶくろとなる夏の肺 荒井孝子 人生の八合目了へたと念(おも)ふべし紫煙を拒む身体となれば 黒田英雄 高校生群るる電車のドア付近いびつな形に昏れのこりをり 関口博美 少年ら下車してのちに重力はつよくなりゆく…

捨てられしガラクタばかりが美しき影をひろげる夕立ちののち 太田賢士朗 アマゾンに中古の本を頼みたれば投げつけるごと翌日届く 三田村まどか やまない雨はないという明けない夜はないというないものが来る 吉原俊幸 人生を軽く扱ひゐるごとし借金のことロ…

◆ 継続あるのみ 伊波虎英 「短歌人」に歌が載るようになってこの号で八十四回目、ちょ うど七年になった。欠詠しないことと共に、 歌といへばみそひともじのみじかければたれもつくれどおのが歌つくれ 土岐善麿『空を仰ぐ』 「おのが歌」を詠うことを常に念…

熊蝉はくろがねの刃(じん)シャシャシャンと愚かしき日を切りきざみをり 熱帯夜しづのをだまきくりかへし九月になれど猛暑日七日 われよりも水分多きペットボトルはわれより多く汗をかきをり 足首にまつはる糸は赤からずアシダカグモとめぐり逢ひたり 月下…

後悔は決してせざるまなざしの柴咲コウのごとき月影 伊波虎英 *題「自由題」(2010.10.4〜11.21) *歌会詠草一覧(36首)は、こちら。↓ http://tankajin.seesaa.net/article/169324131.html

目高死にて悲しと人の言ひにけり悲しみは表面張力を越ゆ 酒井佑子 みすずかる秋の信濃は空をゆく雲のふちまでまさびしくあり 大谷雅彦 スプーンのつめたき光に夕食を食いおわりたり母と二人で 室井忠雄 子を叱りきみを叱りてまだ足りず鰯の頭とん、と落とせ…

引き出しをあければまばたきする老人三寸ばかりがゐるやうな昼 西橋美保 実況はゴーーールと叫ぶ屋根裏のあるいは路地のひとりのトトに 久保寛容 消えたい日…車道に近く歩みおり影を轢かせるそれだけのこと 生野檀 父の死をはさみ今年は七たびの帰郷をなせり…

台風のちかづくといふまひる間の日傘しなるわしなるでしかし 勺禰子 曖昧に笑(ゑま)へるわれの目のはしに白くかがやく逃げ水のあり 関口博美 わが墓にする自然石を探さむと十年余ただ思ふのみにて 永井秀幸 海外ドラマは時折かなし背を丸めシリアル啜る大…

なにがなし恐ろしかりき母の部屋の枕にのこる深きくぼみが 岩崎堯子 何もかもゼロの飲み物口にするいつもどこかをごまかしている 鳴瀬きら どうしても僕に傾くシーソーの上に静かに初雪が降る 工藤足知 そういうところ少しわかるよ髪をなで早く大人になりな…

目が合へどほほ笑みくるる人はゐず暑さ猛れる雑踏をゆく 火の鳥のフンとおもひて舗装路にソフトクリーム溶けゐるを見つ 3Dテレビのなかの奥深くねむれる神へ手をさしいだす しろがねの坂本龍馬うかびたる五百円玉を千円で買ひぬ 石鹸で洗ひし髪を中和する…

◆「歌も夏枯れ」大森益雄 ひぐらしの百の絶唱その中にわれの弱音も一つまじれり 見舞ふたび母世に在るを実感す笑みて言ひ合ふ早口ことば <23区全図>の折り目に穴あけば靖国神社の<国>破れたり 十一面観音十一それぞれのやはらかき闇におもてを向けよ ◆…

自転車に乗りたるままの姿にて死にし人あり寓意なるべし 藤原龍一郎 夏の夜空に寂しき狐がゐるといふその長き尾を白く流して 西崎みどり 猛暑日は熱帯夜へと移りつつどつちが棄てたかわからぬ親と子 松村洋子 高き位置にとどまる肉のかたまりとして八月のキ…

大変ですねと言はるることの多くなり<たいへん>を生くることの平凡 八木明子 大丈夫って文字が見えた おばあさんの手の甲の皺を見つめていたら 魚住めぐむ 青い空港(みなと)だ工場(こうば)だサイレンだと歌われし校歌の学校が消ゆ 竹脇敬一郎 小鳥らの…

巨(おほ)き牛ぶつかりあへば場内に熟れたる果実の匂ひただよふ 関口博美 血の匂ひのこして黒き牛去ればにんげんの罪しばしかがよふ 関口博美 サングラスはづして御仏をろがみぬ 総身漆黒御眼一筋 川井怜子 蝉のこゑ聞きいれば蝉のこゑばかり恒河沙阿僧祇那…

換気扇まわせば聞こゆ 北へ行き北よりかえる夜汽車の汽笛 有朋さやか ポケットのなかより出でし貝殻は我が掌にもろくくずれる 太田賢士朗 どしゃ降りはきみを眠らせこの部屋を小舟のように頼りなくする 黒崎聡美 「撮り鉄」が雀の如く一列に並びし畦は雨にぬ…

◆ モナリザの瞳 伊波虎英 オールスター戦明け、阪神が巨人に変わって首位に立ち、ペナ ントレースがますますおもしろくなってきた。このまま最後まで 首位でいられるかは期待半分不安半分の半信半疑。長年、阪神フ ァンをやっていると、阪神の選手がプレーし…

牛乳でグラスをよごす八月の朝かなしみのひとつ兆せり 好きだつた夏も嫌ひになつてゆく さう老いるとはさういふことだ 砂浜に漂着したる流木に幽霊高齢者のゆくへ訊く デイサービスの福祉車両に八時間置き去りにされ死にし老い人 自販機にしみいる蟬のこゑな…

睾丸も乳房も垂れている特に神へ祈りを捧げるときに 八木博信 存在を前提として笑いおりたとえばマツコデラックス、クス 藤原龍一郎 ゆるやかに海へとむかふ川であるわたしはぢきにわたしを忘る 阿部久美 肩のちから抜いておほきく息を吐け そら、ひぐらしの…

声のごとく霧わく朝あぢさゐの小窓小窓がしづかに開く 洞口千恵 突き上げた手で陽の光かき集めどこに捨てたかYOSAKOIソーラン 森谷彰 いい傘を買おうこののち雨の日のたびにひろげる頭上の広島 谷村はるか とんがってやっていくしかないのだろう スカ…

八本の吾が包丁はこののちのどのあたりにて捨てて去るべき 田中曄子 おもいでとよく似て蚊取り線香は消えるまぎわにひときわ香る 砺波湊 とりどりの花咲く庭に老妻は正座をなして草を引きゐる 五十嵐敏夫 あの方も逝かれたなどと思いつつ牛乳の膜つまんで捨…

耐震に自信あります強い家垂れ幕風にちぎれて久し 田平子 わが町にカニハ・トンギョウなる地名由来なんぞやカニハ・トンギョウ 籠房代

扇風機組み立てる夜は怪物をつくりしフランケンシュタインの心地 浴室にあたらしき種の亀のごと胡瓜石鹸(オイビヌ)ひとつ置かれてゐたり 韓国の胡瓜石鹸(きうりせきけん)あわだてて文月(ふづき)の髪をやさしく洗ふ オイキムチのオイは胡瓜であるからに…

すつぱだかの母音にすこしづつ喉の力がついてアイからハイへ 本多稜 一滴のインクの青の存在を確かめるごと泣く ひとしきり 鶴田伊津 ドッペルゲンガーがけふもどこかで死んでゐるあるいは東電OLのやうに 橘夏生 信号を守る若者もどかしく見えて追い抜く御…

説明はつかないけれど会社では私に対する評価は低い 森直幹 世の中をはすかひに見る我がゐる、否、世の中こそはすかひならむ 高山路爛 まつさらな五月の空はどこまでもまつたくもつて煌太日和だ 近藤かすみ 奔放な歌詠む友の休みいて律儀な歌群しだいに重し …

参道にかへりみすれば東大寺のうへに空あり小さき空が 高島藍 俊成の「の」の字うつくしものひとつ知りてしづかに終るいち日 水原茜 五月尽ひかり増さりて老木はおのれの影に凭れてゆくも 三島麻亜子 くたぶれし皮袋より排泄をなすときひとはいづへにただよ…

わが臍はここにあるぞと大空を仰ぎて今朝も深呼吸する 小野さよ子 待ちに待ちしわが生命保険の祝ひ金塗料となりて屋根かがやかす 岩崎堯子 ありがとうさよならまたねそんなとき若葉が背中に生えくる痛み 今井ゆきこ 石段を地蔵の影が這い登る 登りきれずにい…

産んだのか生まれたのかもわからない深夜の闇に目を開けている 天野慶 <ミッキーの家>に嫌いな人が来ても抱き合わなければならぬミッキー 生野檀 生き残りたる者の持つかがやきにジャネットいよよマイケルに似る 生野檀 補助輪の浮き上がりたる自転車を風…

◆ キングの言葉 伊波虎英 <細部、細部、真実は細部に宿る。そして目で見たことは、言 葉にしてくれと叫ぶものではないか?><手はじめは自分が知っ ていること、そののち、それを再創作する。芸術は魔術だ。それ に異論をとなえるつもりは毛頭ないが、あら…