2015-01-01から1年間の記事一覧

DIES IRAE (8) 伊波虎英 秋冷の朝に触れたる一切は指よりわれを墓石となす 校庭に少年たちは崩れゆく未完成なるピラミッドとして 一面に咲くコスモスが一様に揺らぐ一億総活躍と 何の終はりをわれに告ぐるや校庭をはみだして鳴るチャイムの音は

◆「短歌人」を読む 伊波虎英 「短歌人」が届くと、まず〈斜め読み〉ならぬ〈名前読み〉でざ っと目を通す。次に、赤ペンを手に読み進めていく時には、名前や 所属欄に関係なく純粋に一首として惹かれる歌に印をつけていく。 連作として楽しめる作品ももちろ…

警笛 伊波虎英 花紀京追悼特別番組に懐かしきひと映りては消ゆ 西瓜食めば祖母の思ほゆ病床に季節外れの西瓜を乞ひし 川蜷(かはにな)を腹の薬と食みてゐし祖母は胃がんで早死にしにき 濃き海のブルーの容器を見上げつつさす目薬の心地よきかな こほろぎの…

残生お見舞ひ 伊波虎英 バカ犬がまた吠えてゐてこの町の気温きやんきやん朝から上がる シャンプーと同じ香りの歯みがきで磨かるる歯に脳はおどろく 残生お見舞ひ申し上げます 夏空に定形外のしろき雲わく 愚策なるプレミアム付き商品券なれども愚民のわれは…

夏の日時計 伊波虎英 ひかがみに光あつめて街をゆく乙女は夏の日時計である 押し寄せる中国人の爆買ひの「爆」に「恭」の字ありさうでなし 外つ国の人が大勢行くといふUSJに一度も行かず づば抜けて歌の上手きはキム・ヨンジャなれど桂銀淑のこゑに惹かる…

坊さんが屁をこいた 伊波虎英 鳴きながら低く飛びかふ燕らの喪のよそほひが雨を呼び寄す あぢさゐの藍の輪廻の転生の顔がいくつも涙に濡るる いつ生まれいつ死ぬるのか知らぬまま生まれて生きていつか死ぬのだ 坊さんはいづこで何をしてをらむ通夜に流るるテ…

○ 伊波虎英 木(こ)の暗(く)れのしげしげ見られゐる洞にぴつたりはまる詰め物の銀 今日もどこかでジョンとポールの歌声がきこえる青きあの星が地球 やはらかき五月の風の重なりて唯一無二なる聖典となる 何も盗らずに逃げたコンビニ強盗のごとき、然れど…

桜のうた 伊波虎英 ひと年(とせ)をかけて桜は大いなる肺活量の呼吸ひとつす 春の日のへうめんちやうりよく満開の桜はおほき水の粒なり 花霞のむかうにぼんやり見えてゐるやうな気がした昭和の家族 白髪をもたぬ老木おそろしや萎るることなく散るさくらばな…

三月の耳 伊波虎英 松島アキラの「湖愁」流るるラジオにて母の青春よみがへる朝 一杯の水飲みて寝るならはしは朝のゆまりの爽快をよぶ 廃屋の解体されて後をなほ黒猫はゐて更地を統べる 放たれて花粉まみれの蝶は舞ふ可憐なくしやみ響く車内に 啓蟄の耳より…

如月の空 伊波虎英 やり場なき怒りのごとし靴ひもはほどけて朝の道を撲ちたり 道ばたでスニーカーのひも結ぶ背にシリアにつづく如月の空 惑はずに来るあすあさつてしあさつて人は惑ひて靴底減らす 久々に板チョコ食べむと手にとれば余りの薄さに哀しくなりぬ…

年末のうた 伊波虎英 冷蔵庫ひらけば明く照らされる賞味期限の日付の過去が 細胞を噓で真つ赤に光らせて理研を去りし小保方晴子 薩摩切子の赤いグラスが心臓に埋まつてゐさうな微笑みだつた 老人は明るい未来へ突つ走る高速道を逆方向に 寒天で固めるための…

ろうずモノのうた 伊波虎英 二十年使ひてきたるナショナルのこたつ静かに点かなくなりぬ パナソニック製ももうない。 絶滅危惧種タイマイのごとく怯ゆるや店に寂しくありてこたつは 幼き日おこたと呼びしこたつにはこたつにはなき温もりありき ダイソーに温…

神を折れ 伊波虎英 百合の花おほきくひらき晩秋の部屋に香りをつよく放てり 一枚の紙より生れし鶴たちが群がり垂るる祈りの嵩に 重なれる絵馬と絵馬とにはさまれて身動きできぬ神のをるらむ パンプキン色のドレスにあらはなる細き手足がハロウィンを告ぐ み…