2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

森を透きて遠き水べの明かりつつ犬と人行く世は事もなし 酒井佑子 第一徴兵保険が東邦生命となりAIGエジソン生命保険となりぬ 室井忠雄 いちにちの一番大事なことを言うとき子の唇(くち)は少しとんがる 鶴田伊津 近代の歌人を貧乏と金持に分け、貧乏に…

波照間産黒糖あまみふかくして恋おほらかに育つ地の味 竹浦道子 離れへの歩幅に合わぬ飛石をゆくとき足よりゆうぐれはくる 平林文枝 水を足す硯にひかり砕けいつ 五月晴れなる六番札所 蜂須賀裕子 お父さん・親爺・じいじい、こもごもに死にゆくあなたを引き…

四月なり新年度なり無職なり片目を開けて犬が視ている 納谷孝 ドーナツを半分に割るドーナツは2つになるが穴は無くなる 田所勉 音量を上限近く上げたりて画面に向かひ激怒する父 早坂泰子 三味線で鍛へられたるセツさんの腕にてポンと肩を叩かる 神足弘子 …

新しき洗濯バサミ使うとき指先はバネの力よろこぶ 中野順子 曇りつつひかりあかるしわが耳と耳のあひだで鳴きやまぬひばり 大室ゆらぎ たちまちにカネと人とは去りゆきて「あのころはよかった」だけが残りぬ 野上卓 図書館のちかくにそびゆる議事堂はからつ…

日常は些細なものに支えられ商店街のニセモノの花 天野慶 引くことを知らぬ少女の傘のなかおかっぱ調の正論をきく 有朋さやか 「世の中はあなたのために出来てない」他人が言えば臓腑にしみる 生野檀 天井や壁に亀裂を走らせて今はみずから伸びる地下街 猪幸…

二十三、二千十一、三、十一。素数並びし日の午後の惨 西崎みどり 節電の小暗き店に入りゆけば余分なものに心はゆかず 森敏子 觔斗雲ひとつうごかず浮きてゐる福島へつづく空のくぼみに 長谷川知哲 青き十字架後ろ身に付く防護服着てをり一時帰宅の人ら 竹内…

青空を恋ふ 伊波虎英 ひとり来し梅雨入り近きバラ園の曇天のした目薬をさす 「正常です」と言ひし女がわが部屋の柱の釘にぶらさがりゐつ 炎色の花村萬月『裂』が載る机上をじつと見つめる女 「火事です、火事です」と叫ぶそのときを眼(まなこ)みひらき女は…