2005-01-01から1年間の記事一覧

◆受賞作 「メッセージ」倉益敬 穏やかな春の岸辺にフィルムの日付のごとく鷺は動かず 週明けを鰯となりて連鎖的通勤時間帯の人波 年輪といふ輪が見えるなごり雪流行りし頃は痩せてゐたりき ゆく秋にどぜうすくひを踊りゐる絵柄の電車が通り過ぎたり 街灯に浮…

『緑色研究』と『感幻楽』のちやうどあはひに生まれけりわれ 邂逅は『詩魂玲瓏』以後にしてわが誌(しる)すうた偽書めきてゆく 十月は怒りの遣り場に困るゆゑ と名付けむ 秋篠宮親王が放鳥をせしコウノトリは喩にあらず予言 便所タンクのしくみに感心しつつ…

<第345回公募短歌館(「短歌」2006年1月号)> ☆今野寿美選 【特選】 穴馬のずずずんときて結局は二着どまりの初秋の没り陽 ☆小池光選 【秀逸】 街頭で募金あつむる青年の首よりさがる箱の闇穴(あんけつ) 伊波虎英

幸ひを背負ひて生き来し歳月に密かにととのへられし旅路は 雨の夜の眠りのつづきに明日あると恃む心はいつまでならむ 鳥群れて飛翔はじめぬ旅立ちの支度は徐々にととのへられて 群どりの影ひくく地をはしりゆきますます高く青き空なり 海野よしゑ (9月27…

浜風が頰を冷たく過ぎるころ母恋(ぼごい)の駅に待ち人が来る 村田馨 「女囚携帯乳児墓(ぢよしうけいたいにゆうじのはか)」とつぶやけば車窓追ふ月のごととらはれぬ 高澤志帆 深夜にて鉦一つ打つが三度(みたび)続く零時半、一時、一時半なりと 田中浩 …

黒猫が横切ってゆくさっきまでわたしに在った記憶を連れて 猪幸絵 天涯にひとり身となりし従兄病めば初めて顔をちかぢかと見る 有沢螢 茎立ちて花を掲ぐる曼珠沙華たとへば一宿一飯の恩 みの虫 老ひ嘆く患者ばかりが続く日は堪忍袋の緒も切れかかる 高山路爛…

遮断機の棒おりてきて揺れやまぬさま見るとなくひとり見てゐき 公園に(存在といふ)置き去りの(われの不在か)一輪車あり 白紙(しらかみ)に墨もて「一」とゑがきたる地平のむかうで逢はな 吾妹子(わぎもこ) *期間2005.11.4〜11.30 *参…

をちこちに座敷童子らあそびゐる愛子駅前あやし幼稚園 花鳥佰 土塊ゆつくられたれば土塊をみあげて良夜ひとりさやけし 松野欣幸 マンションの窓の灯りのとりどりに違いがありぬありて人住む 野中祥子 とりたててなにゆうこともなききょうをははのねむればお…

広辞苑に「快快的(カイカイデ)」「慢慢的(マンマンデ)」の項ありて太郎の肺にアスベストふりつむ 富士山と北朝鮮美女軍団はどこか似てゐて少しかなしい 候補者のウソや本音を覆ひたるのり弁の「のり」ふやけて黒し 佐野朋子をらぬ九月の教室に留守神(る…

床の上にこぼれていたるクリップにとめられて小さき今朝のひかりよ 早川志織 思い出はきらめくはずさあのときも僕らに降っていたアスベスト 福田和子は逃げきった整形と脳梗塞で世界の外へ 八木博信 首都直下巨大地震被害想定の死者一万一千人まだ生きてゐる…

ラ・フランスの傷みほどなる哀しみは人を疑ふ心よりくる 金沢早苗 明朝の青磁の壺を立たしめて秋のまひるの館(くわん)のしづけさ 春畑茜 川岸に打ち捨てられた木の舟に色彩の神は宿りていたり 守谷茂泰 山里に籠れど山姥にもなれず夜は現し世の夢ばかり見…

濡れ羽色ひごとに褪せて吊されしカラス殉教の使徒のごとくに 山本じゅんこ 賜はりしインドの塩のうす紅を茹であがりたる枝豆にふる 助川とし子 「金曜はフライデー」と弁当屋が言うと新たな意味が拓けた 生野檀 海水をただの一滴もこぼさずに地球はやさしく…

高層ビルの狭間にも秋はやってきていちまいの空垂直に立つ 山本照子 速達は貨車にて夜を走りゐむ踏切次々と閉ざしながら 松野欣幸 駿河なる須々木が浜の白波に夏の名残りの泡立ちて消ゆ 田村よしてる テレビより少し遅れて鎮魂のサイレンの鳴る街空に鳴る 辻…

球うける極秘は風の柳かな 子規 「キャッチャーは野球のかなめ」へうへうとノボさんが打つ大ホームラン 恋知らぬ猫のふり也球あそび 子規 球あそびする虎を見てつれづれの吾に抱擁(アンブラッセ)の秋は来ぬなり 遠くへもう飛ばないボール(雷雲がゴゴゴジ…

<ログ177>◆088:食 荻原裕幸 2005年10月31日 (月) 14時37分 不足なのか大食ひなのかわからぬが食べ残しなき貘がゐて冬 <ログ180>◆033:魚 島田牙城 2005年10月31日 (月) 20時55分 魚扁の字の羅列あり空を飛ぶ鯨の絵あり老人ホーム <ログ182>◆10…

<ログ171>◆042:官僚 佐藤弓生 2005年10月31日 (月) 00時24分 陽物のように右手を握りあい若き官僚と別れきたりぬ <ログ172>◆013:焦 久野はすみ 2005年10月31日 (月) 02時24分 焦燥というタイトルの壁画から馬がつぎつぎ駆け出す朝(あした) <ロ…

<ログ163>◆025:泳 津和 歌子 2005年10月29日 (土) 18時40分 泳げないふりをしているおんななど放置しておけそのうち浮かぶ ◆075:続 足立尚計 2005年10月29日 (土) 19時37分 炎天下復旧作業続く日をただ眺めいる猫けり飛ばす <ログ165>◆046:泥 鈴木…

<ログ158>◆078:携帯 岡村知昭 2005年10月27日 (木) 23時44分 ロンドンの警官はなぜ拳銃を携帯せずに空を見ている ◆070:曲 氏橋奈津子 2005年10月28日 (金) 04時16分 どこへゆく幕間でしょう間奏曲ばかりながれるホテルのロビー <ログ160>◆095:翼 …

◆ 良い短歌/良い読者 伊波虎英 「9月時評/短歌と出会う」で村田馨氏は、作者と読者との間に ある<良い短歌>についての認識のズレに触れて、<良い短歌>が <良い読者>とめぐりあう確立を高めるためには、読者の物差しと 作者の物差しをできる限りすり…

竜舌蘭ぐんぐん伸びてをちこちに咲(ゑま)ふ夏、戦後六十年目の はろばろと来てヘラクレスオホカブト、大和男児にいぢられてをり アリコジャパンとドモホルンリンクルのCMを母忌み忌みてチャンネルを変ふ 微動だにせぬ雲の峰 産院の脇のポストに歌稿を投…

<ログ154>◆100:マラソン 大辻隆弘 2005年10月26日 (水) 01時42分 大いなる徒労のごときマラソンを祝聖しつつわれら愉しゑ ◆053:髪 氏橋奈津子 2005年10月26日 (水) 03時38分 冬の夜の濡れ髪がすぐ凍ること喜屋武くんだけが信じやしない ◆006:時 西橋 美…

<ログ148>◆004:淡 佐藤弓生 2005年10月23日 (日) 07時22分 ガスタンク淡くなりゆく 朝焼けの地球に露とむすびてのちを ◆018:教室 佐藤弓生 2005年10月23日 (日) 07時28分 するすると西日退きゆく教室に机も椅子も脚折りはじむ ◆080:書 星川孝 2005年10…

赫よりもあかき緑をしたたらす処女叫喚の、極月は来よ *題「月」 *期間2005.10.2〜10.25 *出詠歌一覧は、こちら。↓ http://www.tanka.org/kakai14.html

<ログ144>◆065:城 村上きわみ 2005年10月20日 (木) 01時11分 憂鬱に濃淡ありてこの夜を染めるカフカの「城」のうすやみ ◆085:胸騒ぎ 資延英樹 2005年10月20日 (木) 11時00分 胸騒ぎなんて久しくなかつたね、ねぇ PIXUS の女つて誰 <ログ145>◆028:…

<ログ140>◆012:メガホン 高瀬いつか 2005年10月16日 (日) 20時22分 メガホンは声を大きくするだけで言葉を強くしてはくれない ◆072:インク 資延英樹 2005年10月16日 (日) 23時48分 鉛筆でなければ書けぬことがあるインクの滑り忌みつつもとな ◆060:影 …

<ログ134>◆086:占 田丸まひる 2005年10月10日 (月) 22時05分 今ぼくのすべてを占めるやるせない怒りの味がするかすり傷 ◆051:泣きぼくろ なかはられいこ 2005年10月10日 (月) 23時56分 柳ヶ瀬は濃尾平野の泣きぼくろフィリピーナがぺたぺたとゆく ◆056:…

<ログ126>◆032:乾電池 村上きわみ 2005年10月01日 (土) 09時53分 ひきだしの奥をうっすら湿らせる単三乾電池のみどりいろ ◆042:官僚 村上きわみ 2005年10月01日 (土) 09時57分 官僚の、ワイシャツの、ほら、よく糊の、きいた、襟、みたいな嘘をつく <…

◆「夜のプール」金沢早苗 われを待つ人ゐるやうな夕べなりどこまでゆけども信号は青 木陰にて撮る家族写真ばらばらの時間をやつとひとつに集め ひろびろと湛ふる水をそよがせて風あつまりぬ夜のプールに こんな小さな文字かく人になりしかな冷たき雨に葉書は…

◆「一匙の塩」酒井佑子 死ににゆく者なればその朝々をいとしみにけりななそぢとなる 入善(にふぜん)を見たき心の離(か)れゆくを入善はなほ遙かなるかな 父母も故國(ふるくに)の伊予も遙けきに夜更けて道に伊予びとに逢ふ ◆「休日の夜」神代勝敏 隣家よ…

司馬台から金山嶺へ 首都を出て司馬台(スーマータイ)へ道端に幟のごとく吊らるる蓮魚 本多稜 花束を三位に渡す少女ゐて他の誰より嬉しげに見ゆ 梶倶認 いくばくか輪廻転生信じつつ密度のうすき髪を梳くかな 長谷川莞爾 帰りたき昨日はあらず通り雨過ぎたる…