2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ぬるぬるの涎光れりルールなき喧嘩に眼(まなこ)赤き野良犬 電球の切れし洗面台で歯をみがくがごとき寂しさは来ぬ 買ふつもりなけれど未だこの冬の夜に焼き芋を売る声きかず 苛らぎを楽にする意の「イララック」小林製薬の鎮静剤なり 欧米か、と見まがふ宮…

機関(からくり)の半ば見えたるボールペンのやうにはらから母を見舞へり 大森益雄 わたくしに木の時間来て弟のゐることさへもいつか忘れむ 渡英子 煙草族ひそと寄り合ふ屋外のベンチ遠流と近流のあはひ 武下奈々子 氷雨はや雪に変はるかマンホールの蓋のみ…

冬の陽がステンドグラスを透かすとき囀りのごとき響生るるや 守谷茂泰 歌の師とよぶひとなくてあかねさす永井陽子を姉と呼びたし 冨樫由美子 六根清浄となえる日常なにするもどっこいしょと言い底力だす 瀬戸千鶴 権力と男どちらもしょーもなく喉ばかり渇く…

紺村濃の空のくぼみに満月は凍れる鋲として刺さりをり 洞口千恵 日に向きて瞼閉づればあたたかく光はありぬわれにうちにも 御厨節子 卓上に薬袋の置かれゐてはじめてみたるごとき母の名 松野欣幸 使はれし布団を干すとき泣くと言ふ義母(はは)を泣かせに今…

日々ここに落ち葉掃くひと自らもふくろに入りしかけふは在(を)らざり 川合怜子 黄の落ち葉舗道(みち)にびつしり敷かれゐて怪しき影を曳く人が踏む 吉野加住子 まざまざと温き内臓もてるごと夕陽まみれのわが冷蔵庫 脇山千代子 荻ちりぬ 私がしたと言い出…

「記憶不足」猪幸絵 降りながら消えてゆく雪さっきから噛みあっていない会話であった 風船を手放すようにあきらかな別れ方する 割れずにいけよ ぴらぴらと枝毛はひかり突風のホームに女は踏んばっている 「あかつきに来る」高野裕子 「日本は滅ぶね」と言い…