2008-01-01から1年間の記事一覧

ぽうと呼ぶにぽうと応へてふくろふの不可思議の目をみひらきにけり 酒井佑子 飛行機をはこぶ飛行機があると聞くその巨大なる飛行機見たし 関谷啓子 団栗は手のひらの上しっとりと子の手の温み伝えてきたり 鶴田伊津 優しげなカーブの蛇口に水はしり言葉まず…

現れる度に倒してきた壁はわたしの姿で腐り始める 大橋麻衣子 懐中電灯持ちて夫のあと追へば殺す気かとわが手をつかむ 三木伊津子 軽やかに鈴を鳴らして来る猫のその鈴の音に秋は来にけり 小田倉良枝 観潮楼の間取りが頭に入っている吾は鷗外の家庭オタクぞ …

睡眠の少なき我をふうわりと空に浮かべる木犀の香よ 吉川真実 押し返されて一段下がる。階段も前進する気がないと上れぬ 生野檀 石ころを蹴りつつ歩むという遊び半世紀あまりしておらずなり 川口かよ子 秋真昼足にからまるわが影を蹴とばしながら歩いてゆけ…

青果店の匂いが風にのりてくる朝日のなかの会話うつくし 鰐田茂雄 単純な影持つ吾なり日盛りの下りホームに電車を待てば 佐山みはる 付箋紙の糊のにおいのかなしさよかなしみにひたりたくて嗅いでる 今井ゆきこ 川(メ・ナーム)を行き交ふ船を統べて吹く少…

をさなきがポーニョポーニョポニョと唱ふるは朝な夕なの呪禁(じゆごん)なるべし 樹にビルに人に影添ふ陽のもとにおのおのの影、葬穴となる 脱線せし貨物列車がふるごときゲリラ豪雨来(く)帝都の谷に ゲリラ豪雨を (トレインレイン)> と呼ぶわれの頭上…

まんなかに生れたる栗のひとつぶはおのずから身をひらたくしたり 室井忠雄 銀漢をうつすら纏ふビアガーデン浮遊してゆく椅子のありなむ 渡英子 四分の一の西瓜購ひ食(たう)べをりいかなる人らと分け合ふかしらず 蒔田さくら子 産地直送とあれど産地はいづ…

福田首相辞任会見に休止となる『嫌われ松子の一生』の哀れ 秋山夕子 リノリウムの廊下を過ぎるスリッパの足音も間延びする昼下がり 平林文枝 天変と思へるほどの音たてて雷(らい)はおのれの光にほろぶ 岡田幸 喜多方の<切腹美少年>の菓子店主飯豊の山に…

局地的豪雨北上しておりぬ最近の若い雨は、と思う 津和歌子 ちいさな事につまづくわれは弱き者強さ欲しくて見るエド・はるみ 阿部美佳 己が身は先に滅ばん堂々たる十年保証の単三電池 生野檀 革命を信じて割れているざくろ残酷なほど赤く溢れて 森直幹 草原…

重なれば重なりしほど偶然は花壇の薔薇の匂うがごとし 多昭彦 入門の乙女らの膝やはらかに盛りあがりゐて茶室華やぐ 津布久愔子 かたつむり眉間をなぞってゆくようなこころぼそさを共有したい 中井守恵 ふと消えてしまひはせぬか盆祭の三日三晩を踊り明かせば…

「潰したら重たなるんや缶缶(カンカン)は」錬金術師めくホームレス 死に絶えて街ぢゆうに監視カメラは増えゆくばかり エリザベスカラーを嵌めた皮膚病の犬がゴッホのひまはりに見ゆ 「猿の手」を原書で読みて四十歳(しじふ)から四十一歳(しじふいち)へ…

幸も不幸もよみかた次第あしひきの鞍馬は天狗鞍馬は体操 小池光 篤姫の宮崎あおいの横顔はさつきのニュースのライス長官 椎木英輔 蛇口に口あてて飲みたし戦いに敗れただけのボクサーになり 八木博信 放埓のこころほのかにきざしたる夕、手離しで自転車に乗…

袖無しのワンピースから伸びる腕むじやきな人が君に近づく 大越泉 一輛目前部に見をればわが町の駅ははかなく灯りておりぬ 伊藤冨美代 異人屋敷の坂道のぼるパラソルのひとつ発火す夏の夕暮れ 有沢螢 おほひなるおほひなる手が抱くとき熟れし西瓜の重さか地…

繁栄の時過ぎし国と思ひつつ電気コードのねぢれをもどす 森脇せい子 この村の大切な木の下に座す 無慾に此処に在るをよろこぶ 田村よしてる 殺したい一人の男の幻想も抱けぬ馬鹿の“誰でも良かつた” 黒田英雄 勝負師の真髄見たりその一手に羽生善治の指かくふ…

不安に名前をつけむ不安に名前のあらば不安は消ゆる 弘井文子 持ち物のすべてに名前が書かれてた時代を通ってきたわたしたち 砺波湊 密林に羊歯が伸びゆく音を立て君はボトルの水を飲み干す 関口博美 つまみあげ朝の空気にさらすとき角砂糖から溢れるひかり …

電波かつソーラーにして息苦しさうに張りつく壁掛時計 葦原の瑞穂の国は随神(かむながら)おやがこあやめこがおやあやむ 言霊の助くる国にきららかにダガーナイフの光は零(こぼ)る 朝まだき幽(かそけ)きこゑでかなかなは邪言(よこしまごと)を浄めむと…

炭と化す「ツツミサトコ」さんのお弁当幾百年も語りつづけよ 寺島弘子 バッターを打ちとる投手の快感は三振とるよりもつまらせるにあり 室井忠雄 単純に本音といふをすぐに吐くみなもと涼しき泉ならねば 三井ゆき 逃亡したし逃亡したしとおもふ日の都電はま…

雨音に立ち止まるとき紫陽花の中は明るき夜と思いぬ 守谷茂泰 雨の夜のくらき三和土にスニーカーの踵光れり螢棲むごと 宮本田鶴子 ヤーヴェーの父性疎めるわたくしに仔猫晒せり小さきふぐり 森澤真理 雲ひとつなき青空に吸ひ込まれ洗はれてより戻りし眼 田中…

パンのみに生くるは清(すが)しまつすぐに真鯉のむれが口あけて来る 菅八重子 嗚呼俺もおまへもまことろくでなし博打の他に救ひなどなし 内藤健治 父死にきたった一人で 生きている者全員に置き去りにされ 生野檀 つれづれに万国国旗眺むれば赤色無き旗実に…

「だるまさんがころんだ」ふっとふり向けばみな野仏に いつまでも鬼 後藤祐子 ごみ回収日の朝だけに会うひとたちが気圧の谷を呼びよせている 今井ゆきこ 気がつけば鳥類図鑑かなしかりここに載(の)るもの皆翔(と)び去れり 田平子 あいさつを終えてはらり…

梅雨明けのまぢかき午(ひる)に<ごく自然なる愛はむづかし>の歌くちを出づ 糞をする犬をつつめる陽のやうなごく自然なる愛はむづかし 小島ゆかり 金平糖ばりばり砕く織田信長(のぶなが)の奥歯のやうに白き夏雲 Baedeker(ベデカー)の表紙のごとき夕映…

日常はあやうい日々の連なりで振り向くともうそこにない橋 天野慶 極太のマジックインキで数本の白髪をなぞり都心へ出向く 生野檀 身篭ってついに悲しくなることのああ少年にはなれなかったよ 猪幸絵 泡立ちがウリですという石鹸に溺れるように顔を埋める 上…

木香薔薇かきねにあふれははそはの母はねぶりをひたすらねぶる 佐々木通代 牛のにほひ沁むゆふばえの道尽きて太平洋はここにはじまる 金沢早苗 「佐渡郷土かるた有ります」謎のごと貼られてゐたる一軒の家 小池光 ひそやかに逢魔が時は降りてくる団地23号棟…

自販機に大人とわかつてもらふため母は写真を撮らねばならぬ 高澤志帆 鳥が地を見渡すように未来より誰かが我を見ている日暮れ 守谷茂泰 この我を捕へることなく晩春のミニパトカーは曲がりて行きぬ 田中浩 一分が速く過ぎゆく買い換えて小さき目覚まし時計…

何となく書棚より取る『冷血』にわれの妬心は衰えず在り 久保寛容 心底人が恐ろしと思ふ夜ぞ セコムも人につながりてゐる 森脇せい子 ひとところこゑ強むればそのやうにimagineと言ふ生徒らをかし 野村裕心 置き場所をあれこれ変へぬといふ事が老いの哲学め…

地下へゆくエスカレーター長ければ時計の針がにはかに狂ふ 関口博美 羊カンを六つに切れば切り口は五つか十かないともいへるのか 西尾正美 間口狭き刃物屋に並ぶ包丁の刃渡りは奥へゆくほど長し 吉岡馨 寄り掛からずシャンと自分で立ちなさい 週に一度はファ…

厚切りのカステラ食めば思ほゆるかの北原白秋(はくしう)の触れしやは肌 こッ斑(ぱん)の消えては出づるむず痒きわが身は何に疲弊してゐる しろがねの雨ふる夕べ バリカンは老いたる神の頭(づ)を刈りてゐむ Ave Maria 踏絵のマリアふむやうに雨は恥(や…

夜半覚めて思うは何時も同じ事闇の向うの更なる闇を 野地千鶴 無尽数(むじんず)の樹木を昇る水の嵩天に見るとき瀧のごとけむ 武下奈々子 わたくしに背骨のあるを思い出すひとと真向かう緊張を得て 鶴田伊津 雪月花の華(はな)にまひるを酔ひながらすべて…

海草のやうになりたる雨合羽つとめ終へたる手足より剥ぐ 平居久仁子 雨後の道かほもこころも上向きて四月の空を桜とあゆむ 洞口千恵 つぶやいてみれば魔除けの経のやう晴耕雨読、せいかううどく 大越泉 いつか未来、老いたあなたが流すだろう涙ひと粒この指…

何もかも人に任せてひたすらに眠り続けるいのちは強し 立花鏡子 「ウザい」などと言はれかなしき母親は子を誉められて少女のごとし 野村裕心 運動のため階段で五階まで。精神科患者の健脚を見よ 生野檀 身長百六十二センチ レーニンもスターリンもメドベージ…

どのやうににぎりてみてもはみだせる生命線の上の生き様 脇山千代子 倦怠はたゆたふやうに困憊はみやくうつやうに まなぶたになり 弘井文子 星見駅・星置駅と通過して星降るやうな駅に降りたり 田中愛 (2008.8.25.記)