2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

<第8回高瀬賞>受賞作より抄出 「眠る山鳩」中井守恵 山鳩の鳴くこえがする 死後のことおもわず生きん生きている間は 下校する時刻に聞こえたにちにちの祖父のカラオケかなしい日にも あまたのこと忘れしのちもわれの名を呼ぶとき祖父は寛大なりき うつく…

春が来た 西太后さへうきうきと列なして買ふ「堂島ロール」 橘夏生 学校の外を流れる時間見ゆ京急電車行き来する窓 岩下静香 勝敗にいのちを削る一生(ひとよ)とは縁なきままに見る竜王戦 生沼義朗 三日目の花瓶のバラはひらききり写真の母を半分かくす 木…

吾はさぞやいい顔だろう好きなことしか行わぬ六畳間では 高山雪恵 水よりも静かな耳を持ち歩く青葉の光降り注ぐなか 守谷茂泰 子供の日、母の日、われの誕生日 五月だんだんうとましくなる 洞口千恵 踏ん張りのきかない日には泣き声を赤子にまかせ涙だけ出す…

父に似ることただ保ち真夜中のしじま一枚の鏡は立てり 久保寛容 東京がダイヤモンドと輝(て)りし頃兎跳びを信じて跳ねてゐた 黒田英雄 さながらにSF映画メキシコの大き男みな青マスクつけ 山室淑子

思い出を盛り付けるには白すぎる食器が並ぶ雑貨屋の棚 海野雪 羽だけの蝶々のやうなさくら散り眼に貼りついてそこからは、闇 勺禰子 午後七時しずむ夕日の輝きは君がのみほすオリオンビール 新倉幸子 コンビニのレジのわきにも彼岸ありて花束三つ売られてゐ…

牛乳にひたる苺に少女期の母がゐたるとおもへば哀し 線香の煙ただよひ夕卓の湯気にまじれば母は老いゆく 母のない子どものやうに旅立ちてしまひき清水由貴子ひとりで 神憑(かみがか)るさまに酔ひたる素裸のをとこ叫べば帝都震へる 草食系男子のコンビニ店…