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助詞というやわき触手の生えて子のことばは世界つかみはじめる 鶴田伊津
どこまでも空を仰げる銅像に立て掛けられし箒を見たり 倉益敬
100ミリの豪雨の中を「川を見に」行かむこころのしたしかりけり 川本浩美
カール・ゴッチ死に小田実死に阿久悠死にわが晩年の幕開きとなる 大橋弘志
子が親を殺すニュースが今日も載る花盗人にならむこよひは 西崎みどり
炎昼に夫(つま)が詰(なじ)れば目を醒ますわたしのなかの<春川ますみ> 橘夏生
金平糖の棘のやうなるクマゼミの声降らせゐる一樹を見上ぐ 藤本喜久恵
ごつつりと土より出たる膝小僧四千五百メートルほどの 本多稜
泣いたって放って置かれるしかあらず昭和なかばの赤子ぞわれは 室井忠雄
春の苑くれなゐにほふ桃の花した照る道にいで立つ腐女子(ふじよし) 小池光
戦(いくさ)なき空ぞと開きしパラソルの白忘れねば黒日傘忌む 蒔田さくら子
一年半を物の見事に酒断ちしきみと呑む一日(ひとひ)の締めくくり 宇田川寛之
あますなく言うべきことを言い終えしひとの化粧の濃さを見ている 石澤豊子
満々と水を湛えて流れたる農業用水・井上陽水 真木勉
憎むときも愛するときも阿久悠のつくった歌をつぶやくばかり 八木博信
八月の水枕よりみづは出て最後に「ポト」と音が落ちたり 春畑茜
わが町に天満座があり夜な夜なに人が斬られてまたひとを斬る 川島眸
神に近づくためには深く悪を為すほかなきを言いし高橋たか子 宮田長洋