雨音に立ち止まるとき紫陽花の中は明るき夜と思いぬ  守谷茂泰



雨の夜のくらき三和土にスニーカーの踵光れり螢棲むごと  宮本田鶴子



ヤーヴェーの父性疎めるわたくしに仔猫晒せり小さきふぐり  森澤真理



雲ひとつなき青空に吸ひ込まれ洗はれてより戻りし眼  田中浩



棒つきのアイスキャンディー結局は棒の味だけ口に残りぬ  真狩浪子



世代論からはいつでも漏れながら一駅ぐらいは歩いて帰る  谷村はるか



病廊をたどりて行けば中ほどに電子レンジの空洞はあり  伊藤冨美代



弟に会わねば父母のおりしこと忘れそうなり恐ろしくなる  磊実



みづからの輪郭のぶれを修正し終へたるころに地震は去りたり  洞口千恵



二人分の素麺を茹で水流は鮮やかな北斎の白波  猪幸絵