家族の茶碗静かに洗うエレベーター停まりし計画停電の朝  平野久美子



掃除機のコード最後までしつかりと引き出せといふはがききて笑ふ  小池光



阿と発し吽と応じて一対の狛犬確かめあはむ深闇  蒔田さくら子



遠雷か雪崩かあれはああ冬が帰り支度をしてゐる音だ  庭野摩里



春雪の触れては溶ける大地あり未だ書かれざる手記のごとくに  守谷茂泰



大人しくしているんだぞ人質も会社勤めをしている君も  八木博信



春泥にのこる足跡誰がものとしばしおもうも愁いの午後か  藤原龍一郎



岩沼の洞口千恵の詠草を読みつつ余震の夜を耐へたり  渡英子



一列に並びし自転車そのサドル雪を被りてそれぞれサドル  長谷川富市