◆吉浦玲子第1歌集『精霊とんぼ』(砂子屋書房 2000年)


母子家庭という現実の中で詠むわが子の歌、職場詠など約370首。
子供を詠んだ歌以外にもにすてきな歌が多かったので
なるべくそちらのほうから10+1首選。



雨として絞らるる前いちめんに雲は膨れて空を覆へり  


実の固い冬のトマトを食べながら夕暮れていく部屋に冷えゆく  


一本のらふそく灯し確かむるわれと吾子との異なる未来  


さんぐわつに逝きにし人の黒ぶちの眼鏡もぬくき地より芽ぶかむ  


子と並ぶ浴衣姿のジョン・レノンさむきくるぶし見せて写りぬ  


ゆるやかにゆふぐれ来ればをさなごの靴泥はらふほどのさみしさ  


霧の雨の日暮れゆくときしほしほと傘持つゆびのさきより濡るる  


雨ののち窓にとどまる数滴の雨粒もバスに運ばれてゆく  


ヘリコプターをヘビコブタアと子の言へば蛇と子豚の降りくる気配  


あふぎみる樹々は光をふふみありいつか言葉と出会ふ日も来む  


淀川のむかうの人はつめたいと淀川のこちら側の人言ふ


 
                                         (「虹のつぶやき(46)」より転記。)