(3/9記)
鉄橋を渡りて大きくカーブする先頭車輌は秋日に傾ぐ 竹内タカミ
主役にはなれないけれど光ってる海老天丼の中の茄子天 桂はいり
会社までいつもと違う道で行く それでも何も起らないだろう
何処からか We are the champion 漏れ聴こえエレベーターは一階に着く 森直幹
伊賀焼の小壺に移し替ふるときとろろ昆布の酢の香り立つ 梅田由紀子
パンの耳やはらかく裂き一日は犯さるるやうにひらかれてゆく 松野欣幸
遠くまで行つてしまつた吾子からの電話かすかな煙草のにほひ 近藤かすみ
今日よりを冬と思いぬこぼしたる灯油の匂い三和土にしみて 高木律子
宝くじ当ると思えば並び買う山崩れなしと思えば並び住みなん 藤倉和明
訃報欄に本名の死の告げられて衣を脱ぐごと歌友は逝きぬ 八木明子
ほたほたと天が卵をうみ落とす野分の風のわたるわが庭に 高島藍
山よりのつめたき風は庭さきの犬の置物の鼻を濡らせり 高倉万里