おのが罪ひたと見ろよと言うようにどちらへも流れていない川
お前より多くの町で生きてきたお前より辛いカレーを喰って  谷村はるか



SLのすべり止めの砂売られをり合格願ふ受験生らに  正藤義文



レシートの日付け変わりてコンビニの二十四時間一年始まる  前田靖子



赤福はよく売れている売られてる京都駅でも新大阪でも  大野ゆかり



ゆうゆうと己がことのみなす人のかたへにありて寒き日長し  室山郁子



「二十(はたち)」とふバス・ストップのかたはらの桜ほころぶ二ひら三ひら  牧尾国子



ウーロン茶買ったらチロルチョコくれたバレンタインデーの日のローソン  松木



整形も化粧も薄きヴェールなり声があなたのすべてをさらす  若尾美智子



テレビ欄 内親王のお慶び 絶滅危惧種の特番もあり
垂直に都会の夜を割るごとく六本木ヒルズの昇降機落つ  有沢螢



ゴムエプロンの女が海より引き上ぐる春の若布は光をちらす  岡田幸



他人なる妻へおよばぬ不可思議の夫より姑へ伝染(うつ)りゆく風邪  竹浦道子



材質はプラスチックに変わっても形変わらぬ吸い飲み洗う  立花鏡子



あなたのものわたしのものなるこの空を高層ビルが突き破りゆく  中山邦子



素直なる杉ほど曲る性ありと教師の孫に教へてきかす  本間甚太郎



いつの間にか更地となりしおもちゃ屋の敷地の狭さに驚かされる  池田弘



ゆつくりと大根抜けば大根の形の穴が土に残りぬ  林芙美子



残世の幾許ならん肉叢を遺して心の逝くをおそれる  川口かよ子



いつしかに四角四面の角のとれ氷室に残りしものは思い出  会田美奈子



集団に突如起こりて言ひつのる正義といふはひた不気味なり  みの虫



「殺さないで下さいもうすぐ死にますから」母が言う悲しかりけり  岡頌子



天つ空ゆつたり泳ぐ飛行船かつて呼ばれし<勇魚>は至言  大倉佳彦