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◆「徘徊行進曲(マーチ)」内山晶太
うらわかき宮里藍のかがやきに照らされて月のような私だ
◆「巫女のように」川田由布子
無垢なるはたいせつな意志バイオリンの少女の肩に黒髪流る
電話機を握りしめたるまま逝きしマリリン・モンロー携帯電話(ケータイ)を知らず
◆「いろは歌」渡英子
ひつそりと茸のやうに生えてゐる山かげの家はねむたさうなり
起点鹿児島市山下町 終点那覇市明治橋
洋(わたなか)の島をつなぎて海ゆ来し国道58号線に左折して入る
◆「たそがれ日記」永田吉文
毒舌のおかまが好かれる二〇〇四年 自衛隊なら何処へでも行く
◆「一本の大根ありて」北帆桃子
目配せに応うるひとの欲しき昼合図ひとつで跳ねるイルカは
◆「早春抄」大橋弘志
雲ひとつない朝だねとふりむいて言はうとしたら一つ見つけた
歯を磨くあひにふたつの歌忘るふたつありしは憶えをれども
◆「那須の夏」室井忠雄
あさがおは何メートル伸びると見ておれば七メートルあたりが限界なりき
◆「満腔」和嶋忠治
粛粛とGenital organs を浄めゐる樹氷の下(もと)の犬と目があふ
◆「旅立ち」谷口龍人
おんなとは即ち母性抱くはずが抱かれていたるわれかも知れぬ
◆「多く植物の歌」梶倶認
道祖神と石の面に彫られゐて祖の字の辺り濃き影が見ゆ
◆「一夏(いちげ)終る」大森浄子
渦を巻き落ちゆく水を見つつゐて二合の米の片手に重し
◆「光をまとふ」海野よしゑ
旅ひとつ為さむ希ひをつなぎつつ春あさき日の光をまとふ
◆「春草柔毛」早川志織
卓上に置かれしままに寡黙なる透明定規は日差しを測る
青き覆(おお)い風にめくれて造りかけのビルの胸骨ふいに見えたり
◆「春へ」高田流子
夕暮のベランダにまだ干してある蒲団のやうな老いの日もある