6.17:おまわりさんの日  伊波虎英選


【天】
誰も見ずおまわりさんの日の雲梯  ユースケ
【地】
おまわりさんの日L字になりきれぬ拳銃  中村安伸
【人】
おまわりさんの日とはこちらが恐れ入る  中塚涼二 
【佳作】
終わりませぬおまわりさんの日のじゃんけん  緋色
血塗れの詩を拾ひたりおまわりさんの日  文平字
おまわりさんの日のおのぼりさんにおしぼり  月野ぽぽな
おまわりさんの日ひまわり育つ駐在所  寒蝉  
おまはりさんの日の自転車の影ゆらり  春畑 茜
おまわりさんの日前かごの大根葉  坂石佳音
制服のコンパス長きおまわりさんの日  まなぶ 


【選評】
1874年(明治7年)のこの日に巡査制度がスタートしたことに由来。
「天」のユースケさんの句。
子供にとって学校でさえ安全な場所とはいえなくなってきているが、
子供たちのいない校庭や公園ほど寂しいものはない。運動遊具の中から、
漢字表記が天国への階段を想起させる「雲梯」を選択したセンスが光る。
「地」の中村安伸さんの句。L字になりきれないのは、
回転式弾倉と引き金が出っ張っているからか。なかなかシュールな句。
「人」の中塚涼二さん。警察権力への痛烈な皮肉が感じられる一句。
「おまわりさん」は親称だが、「おまわり」と呼び捨てにすれば蔑みとなる。
「佳作」から、緋色さんの句。
「迷子」ならぬ「あいこ」か。「おまわり」が堂々巡りを連想させるのと、
延々とあいこの続くじゃんけんの即かず離れずの塩梅がいい。
文平字さんの句。
詩人の血か、それとも見知らぬ読者の血か。交番に届ける必要はない。
拾った彼もまた、自らの血でこの詩を汚し、己の血と為せばよいのだから。
月野ぽぽなさんの句。韻を踏んで一気に詠ませる。
おのぼりさんにとっては、どちらもありがたいものだろう。
寒蝉さんの句も韻を踏んでいる。「駐在さん」と呼ばれて、
地域に溶け込んでいるおまわりさんと平和な町が目に浮かぶ。
春畑茜の句も、のどかな町の駐在さんの姿か。
坂石佳音さんの句も自転車だが、こちらはママチャリ。
子供を前後に二人乗せて走っているたくましいお母さんを
時々見かけるけれど、もちろんこれは違反。
まなぶさんの句。
「就職難だし警察官にでもなろうか」と考える若者もいるとか。
スマートなのは外見だけで、内面は武骨で正義感に燃えた
おまわりさんであってほしい。「長し」と切ったほうがよかったのでは。
選外から、いくつか。
  おまりさんの日わたしが誰かわからない  園を  
「わ」が抜けて「おまりさん」になっていたのが残念。
  おまはりさんの日のがきデカこまはり君「シケイ!」  やそおとめ
小学生の時、『がきデカ』派と『まことちゃん』派に男子は分かれていて、
僕は『がきデカ』派だったので採りたかったのだけれど、
がきデカこまはり君」はくどいし、リズムが悪い。「こまはり君」だけで十分。


【選者吟】 
おまはりさんの日のポケットに暗射地図  伊波虎英