6.19:朗読の日  伊波虎英選


【天】
朗読の日やカツサンドほのぬくき  櫂未知子
【地】
身じろがずゐる朗読の日のガガンボ  坂石佳音
【人】
朗読の日の大空をめくりましょう  月野ぽぽな 
【佳作】
朗読の日留守電の灯が瞬けり  文平字
朗読の日に速読の勧誘者  中塚涼二
あきつしま大和し美し朗読の日  園を
読点と読点の狭間にいる朗読の日  ますみ
朗読の日の テノールバリトン・バス・ソプラノ  やそおとめ
朗読の日諸行無常の響きあり  大西龍一
朗読の日「メロスは激怒した。」  野月寛紀


【選評】
朗読を年齢を問わず、大衆に支持される芸術文化として普及させようと、
日本朗読文化協会が2001年11月14日に制定。
「天」の櫂未知子さんの句。
紙の包装箱から伝わるカツサンドのほの温かさとずっしり感は、
あたかも一冊の書物を手にしているよう。また、
箱を開けば文庫本が何冊も並んでいるようにも見える。
知識欲と食欲を同時に刺激して、幸福感をほんわかと感じさせてくれる一首。
「地」の坂石佳音さんの句。
記念日名に、「ガガンボ」という夏の季語をうまく配した。
「大蚊」「蚊の姥」とも呼ばれる気色悪い虫。さすがに
哲学者には見えないが、朗読に耳を傾けているようには見えなくもない。 
「人」の月野ぽぽなさんの句。
鬱陶しい梅雨空をめくって……。なんとも雄大な一首。
文平字さんの句。
留守電のメッセージも朗読みたいなものか。
たしかに留守電にメッセージを残すのは緊張する。
中塚涼二さんの句。
電話の向こうで、勧誘マニュアルを流暢に朗読する人。
園をさんの句。
日本語の美しさ、ひいては日本のすばらしさを再発見。
ますみさんの句。
朗読には、スピードや間合いも大切で、読点を侮ってはいけない。
「読点と読点の狭間」が集まったものがセンテンス。さらに
そのセンテンスが連なったものがストーリー(人生)か。
やそおとめさんの句。
声質も、朗読にとって大切な要素のひとつ。
大西龍一さんの句。
平家物語』の一節を「 」で括ってしまわなかったことで、
平板になることなく、句に深みが出た。
野月寛紀さんは、『走れメロス』を朗読。
「朗読の日」の今日は、桜桃忌でもある。
ということで、選者吟でも、
太宰治の「秋」という小品を朗読してみた。
(「秋」とは季節外れなタイトルだが、作品中に
「秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。」という一節がある。)


【選者吟】 
朗読の日「芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ筈ナノニ。」  伊波虎英