新潟県中越地震では新幹線が脱線した
地震でも怪我人出さぬ脱線とエラーの末に死者出す脱線  村田馨



夢の世にはかなき家を建てにけり朝の光に気化するものを  内山晶太



はじめてとアラビアータを食(は)む祖母と森田一義アワー いつまで  高澤志帆



千年を咲き継ぐ花の遠近に文語あやつるうぐひすのこゑ  庭野摩里



声たてず咲きて音無く散りてゆく花よ人間(ひと)とはげに騒がしき  山下柚里子



業務用冷凍菜の花五百グラム、どこぞの春を閉ぢこめしもの  宮本田鶴子



いそふらぼん豆の中なる小人たち病中病後つれづれに呼ぶ  武藤ゆかり



咲きこぼるる藤の花房かさなりて影を濃くするふてぶてと生く  高槻佑子



風穴と呼ぶにはあまりに小さくてわが春闇を抱く耳朶  杉山春代



「メール読む女」をゑがくフェルメールの窓をみたして光は昏し  西橋美保



しらすしらすわが飲食(おんじき)のさびしさに滅びしのちの眼をひらきをる  春畑茜



花梨酒(かりんしゅ)という喉の薬を飲みほせば深夜に開く花とならんか  山粼泰



町田康詩集を買ひて帰り道ダンプとケンカしてもうたやん  田中浩



はなどきを待ちゐるこころに逝き給ふ栗原貞子「生ましめんかな」  曽根篤子



法論堂をおろんどと読む丹沢のバス停に我待たされてゐる  阿部洋子



泣いたつて仕方がないといふことを知つてゐるから泣くさくらふる
ながいながい放課後だつた繰り返し倫敦橋が落とされてゐて     冨樫由美子



バーベキューの煙は佐佐木信綱の墓に入りゆき墓石けむらす  小門則子



たぬき蕎麦食いし間に死なせしと言われぬためにずずずと急ぐ  森澤真理



桜ん坊甘しあましゑ林檎ほどおほきからぬを幸ひとして  佐々木通代



薬飲む夜のしじまよ目を閉じて春雪の降る音に気付きぬ  守谷茂泰