頭陀袋を木かげにかけて口ゆがめ哭く老いひとも見ゆる涅槃図  梅田由紀子



ダブルプレーもなかなかならぬ県大会二回戦あたりを寝て観るがよし  久保寛容



友人の癌のことまでネタにする常連投書家四十一歳  白山太郎



みづみづしき胡瓜、茗荷を置きゆきし友の足音しばし聴きゐつ  高坂真理



ノルウェーの森といふ種の猫がゐてさやけき空の青の眼をもつ  田村よしてる



ポスターへ蟻が一匹たどりつき泳いでおりぬ沖縄の海  朝生風子



風鈴は微動だにせず炎天に自我の限りを吊り下げており  田林昌子



規約無視犯罪以前の小悪事重ねて隣家不幸にならぬ  早川清生



ウインナー見れば被爆者の焼けただれた舌おもいだすとう老人のあり  利根玉恵



不可思議の小首の傾斜23・5度しかり地球は大首傾ぐ  川井怜子



ゆあーんゆよーん日暮れにかたむく夏空にとめねばいつまでゆれるぶらんこ  水原茜



もまれつつ若葉は固くなるものと風の一樹を見てゐて想ふ  佐々木和彦



犬もまたため息をつくわが本を読みゐる横でため息をつく  金子晴子



イケメンはイケてるメンタイコの意味でじっくりイケメン味わっている  山本照子



夢の縁に光をこぼす蛍ゐて死にたる人を思ひてゐたり  佐藤綾子



好む人好まざる人知らぬ人イボイボきわだつ苦瓜あらう  木村悦子



ひさかたのひかりに咲(ひら)きし昼顔は夕陽のかけら握りてしぼむ  荒井孝子



正念場正念場なりとつぶやきて病院帰りのカバンを揺らす  山崎カツ子



啄木も明治の男所有してゐし帽子・外套・雪駄と節子  新井禮



夏に合うカレーはトマト・シーフード?たぶん男が作るカレーだ  上原康子



不覚にも音をはずして歌い居る賛美の外にわれの声する  赤尾和葉



筆太く書く表札を守護としてかかげて媼ひとり出で入る  平柳ミツ子