高層ビルの狭間にも秋はやってきていちまいの空垂直に立つ  山本照子



速達は貨車にて夜を走りゐむ踏切次々と閉ざしながら  松野欣幸



駿河なる須々木が浜の白波に夏の名残りの泡立ちて消ゆ  田村よしてる



テレビより少し遅れて鎮魂のサイレンの鳴る街空に鳴る  辻田洋美



盆踊り一児を産みし娘(こ)の体ふんはり今年の輪の中にあり  小野さよ子



訪ね来て「居たか」と上り込む友のありし世は過ぎ 我は居るなり  久保寛容



青光る蜥蜴のごとき背をみせて出でゆく夫の尻尾わが手に  吉野加住子



蒸し暑き夜を寝返り打つたびにじゃわじゃわ笑うそば殻枕  永田きよ子



磨かれることはおそらくなからんと思ふ秒針金メッキなり  佐々木和彦



放牧の牛の背渡る風謳ふ草も謳へばはるばると夏  河内尚



「わたしにはその価値がある」と言い切れる人の見ている空は何色  魚住めぐむ



何粒か意識しないで頬張って一粒ずつを噛み締めて食う  松村厚子