濡れ羽色ひごとに褪せて吊されしカラス殉教の使徒のごとくに  山本じゅんこ



賜はりしインドの塩のうす紅を茹であがりたる枝豆にふる  助川とし子



「金曜はフライデー」と弁当屋が言うと新たな意味が拓けた  生野檀



海水をただの一滴もこぼさずに地球はやさしく戦争抱く  中山邦子



朝めざめ直ちにうつす手鏡の顔明るければ一日の良し  野久尾清子



くらやみがまだわたしにはあかるくて善光寺へはまた訪れる  猪幸絵



未来より過去はあかるく輝いてリメイク映画多きアメリカ  若尾美智子



百日紅散る下に小(ち)さき墓ありて猫誉信女と刻まれてあり  安斎未紀



慈眼もて見つむる無著も玉眼もてあはれむ世親も面(おもて)割れたる 
                                  無著・世親菩薩     菅八重子



白鷺の田に立つ姿母に似て思わずわれは背筋を伸ばす  暮沼忠子



丑満のもっともくらき空間をひそかに泳ぐ脱ぎしスリッパ  三浦利晴



日なたぼっこ「ぼっこ」にぽつんと身を置けば疲れた自分が溶け出していく  東海林文子



バースデーカード届きぬどれもみな口をそろえてポイントサービス  大野ゆかり



青春の千春の歌は青春に風よ返せよ政治の手から  谷村はるか


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◆<卓上噴水 118>より


「金魚の如雨露」平林文枝
木も草もみずもつ風に嬲られて身をよじりおり−嗚呼雨がくる
透かしみるせろふぁんとおく夕闇にとけゆくときの赤、黄、むらさき