床の上にこぼれていたるクリップにとめられて小さき今朝のひかりよ  早川志織



思い出はきらめくはずさあのときも僕らに降っていたアスベスト
福田和子は逃げきった整形と脳梗塞で世界の外へ          八木博信



首都直下巨大地震被害想定の死者一万一千人まだ生きてゐる  大橋弘



「ここにいるみんな、いなくなるんですよ」言いて明るき瀬戸内寂聴
サイパンを慰霊したりし天皇は紛れもあらずヒロヒトの子息       宮田長洋



まわりつつ人の言葉を吸いこむや独楽を見つめて子ら静かなり  岩下静香



たそがれの子の不機嫌をやりすごし烏賊の軟骨ぐいと抜きたり  鶴田伊津



夏帽子の鍔のふかきに睡るひと朝裳よし紀(きい)のくろしお号に  渡英子



サンマの大一尾求めて分けあひてわれと猫との秋なりにけり  三井ゆき



奥山のきのこならぶさわが食へばたくさんの嘘いひしこと思(おも)ふ  小池光



人が人焼くもさだめと思ふとき享年六十二歳焼かるる  大森益雄



暮れるまでいますこしある街かどの幾度も振り向くような猶予(たゆた)い  阿部久美



郵政も年金も九条もハンタイの演説のような夕立が来た  知久安次



初めから切れているような感じにてテープカットの白紐落つる  村山千栄子



ふいに蝉わが足もとに落ちてきて苦しみの種を拾えというか  川島眸



乗り降りをする人もなくドア開きて「広告募集」の白板見ゆる  寺島弘



まだすこしこの星に棲む 窓あけてひとりの午後に開く地図あり  平野久美子