ラ・フランスの傷みほどなる哀しみは人を疑ふ心よりくる  金沢早苗



明朝の青磁の壺を立たしめて秋のまひるの館(くわん)のしづけさ  春畑茜



川岸に打ち捨てられた木の舟に色彩の神は宿りていたり  守谷茂泰



山里に籠れど山姥にもなれず夜は現し世の夢ばかり見る  大野三千代



茹で上げて解(ほぐ)すのだけが面白くそうめん瓜を買ってしまいぬ  岩本喜代子



少年は蝉のぬけ殻かごいっぱい詰めてジュラ紀へ旅立ちてゆく  青柳泉



ニュースへとチャンネル巡る息継ぎに太く被さる黒人霊歌  森澤真理



朝な朝な開く雨戸の隙間から男の頭ぬつと突き出る  伊藤俊郎



あまりにも結び目かたきひもなればいたしかたなく切り離しけり  楠田よはんな



国会はさびしき森よどの木々も植え替えらるるを戦きて立つ  渡辺未知也



生さんま三等分して焼いており妻にはひとつ私はふたつ  田所弘



水ねむる息の汀に寄せきたり夏は夜ごとに老いてゆくなり  西沢一彦



高句麗(こうくり)船かく来にけむか入港の万景峰号(まんぎょんぼんごう)汽笛を鳴らす  椎木英輔



美しい花の種子かもしれぬゆえ棘ある言葉をふかく埋めつ  佐藤慶



シークヮーサージュースでめざめる朝も良し古酒(クース)で更ける夜もなお良し  村田馨