剪らむとする公孫樹の幹に掌をあてて若き空師(そらし)は頭さげたり  竹内タカミ



今しがた啼きたる鳥のこえ蔵うメタセコイアのみどりゆたけし  荒井孝子



指先に蝶が止まってその瞬間母のない子になった夕暮れ  花森こま



雄馬の交尾するがに立ち上がり白骨と化す夏の自転車  森俊幸



六ヶ月の月評にのらぬ歌づくりやめようと思う続けようとおもう  藤原美絵



たゆたひて尖りし岩も呑みこめる私のなかの海を信ずる  中村良男



つき合ひは二年になるが我の名を知らぬらしいな次男の岳(がく)は  さつき明紫



ははの聞くテレビの音はおおきくて風呂にも届くテポドンのニュース  朝生風子



故郷を出でし時より唯一つ離さざりしは西川毛布  木戸真一郎



七月は山開く月ゆきのこる山に挑みてひと死ぬる月  吉田宏道



山男乳房をめざし海男陰(ほと)をめざせり一生(ひとよ)をかけて  松野欣幸



想い出のひとつひとつに櫂があり駆け抜けてゆく夏の少年  江國凛


            
                                                    (2006.12.25.記)