女なれば何故か名をもて呪のやうに呼ばるる容疑者スズカ、スズカ  生野檀



暴走車になるつもりなどないのだが小学生が眼前にいる  幕田直美



譲渡書類に不備はなけれどわが店の農薬服みてひと一人死にき  西尾睦恵



年下の上司よくしゃべる男にて六月はやや上滑りに過ぐ  関浩子



とろとろの鰻食べたしこのところ草臥れてゐむをとこと逢うて  近藤かすみ



前衛の短歌講演会へかけつけぬ四十年詠みきし道の記念と  吉田弘



スタジアムに影深まりて無理通すロナウジーニョの脚の不可思議  久保寛容



はたた神の体温のこるあかときの雨にかうべをふかくさし入る  洞口千恵



手を出せば水が流れるセンサーに包囲されたり日本人は  本田翠



月見うどんの月くづるるを泣きし子が千の月呑みいま百八十センチ  和田沙都子



この家ももう二人なり城のなき石垣ほどに古りゆく団地  会田美奈子



夕立ちは本降りとなり祖父と寝る蚊帳吊りの釘あらはな広間  大越泉



ぼくが見ていた紫陽花をデジカメでインドの人に撮られてしまう  斉藤斎藤



神殿の庭に敷かれし玉石のおのおののまとふ影のしづかさ  安達正博


             
                                                    (2006.12.24.記)