みどりごの乳乞ふごときさびしさを入浴剤の白に思ほゆ  森俊幸



日輪の旗翻へる時哀しめよ三島由紀夫の長き睫を  二子石のぞみ



ウミイグアナの険しき凹凸おもふとき滑りのかるき人間(ヒト)をさびしむ  水原茜



毎年を岩手のぶどう届くなり本支店勘定の取りもつ縁  長峯早智子



通過電車の流れる窓はあらあらと美少女とわれを等しく映す  川井怜子



済し崩し老ゆるというは無慈悲にてとろりとろりと冬瓜を煮る  朝生風子



むざむざと無力なるわれ知らしめて中天にあり隻眼の月  洲淵智子



糸垂るる人と白鷺対き合ひて沼の水面をともに見つむる  荘司竹彦



水よりもかろき体の水すまし水より重き影曳きてゐつ  佐藤綾子



鉢花のグズマニアなる一鉢を私は私へのお土産に買う  佐野良子



貴婦人の訪問販売(セールス)来たりてわが買ひし「植物図鑑」ワカゲノイタリ  萩島篤



臍のゴマ掻き出だしつつ勧誘の長き電話に付き合いている  小林惠四郎



颱風の前夜は玻璃も浴槽も釘も聖書もひそみてゐたる  松野欣幸



今日読みし物語にて出会ひたる<かはほり><かはひらこ>わが庭をとぶ  森脇せい子



人の不幸蜜の味なり近鉄の閉店に心明るくなれり  木戸真一郎



校庭の裏庭の尊徳像はたふるるままに本を読みをり  水田まり



死の裏にさんま、さんまい並んでた ぼんやりめくる辞典のなかに  砺波湊