身の丈のやや低くなるはつあきは地を這ふものらことに親しき 
しろがねの刃の翳るとき梨の実のうちより雨の音聴こえ初む   洞口千恵



芝居小屋のモギリの青年(おとこ) 半ズボンにネクタイ締めて夢を見るなり  蜂須賀裕子



生卵の好きな子供は呪われて病院通いの我となりたり  東海林文子



「月へ行く切符」と云いて子が好みし森永マリービスケット買う  中村さち子



ステーキを好みしをんなときを経て今でも韮レバ最も好む  川粼義一



羽ばたきを忘れぬように折鶴の小さき胸に息ふき入れぬ  柊明日香



東京は雨の日がいい路上へと滲んだほうの町を見ている  谷村はるか



敬老の日という今日をやりすごし草のちちろを母と聴くなり  久保寛容



下の句を得たりとおもふ一瞬に手の甲が熱きフライパンに触れつ  和田沙都子



をさなごが仲間はずれを作るごとハヤシライスの玉葱よける  柴田朋子



少年の三人組と目があへばメイドのやうに微笑むわれは  みの虫



古漬の茄子のごとくに萎びたる歌ばかり詠み脳(なずき)疲れる  やはしとし(旧 関根忠幹)



酔っぱらいの男とパンダの乱闘を告げてラジオのニュースは終わる  小林登美子



デイケアに付きゆく帽子はいつの日かとり残さるる覚悟をすべし  山田幸



晒されたあげく実名報道が是か非かってもう俺は死んでる  生野檀



電器屋の前の幟にぺらぺらと揺れてゐるなり笑顔の家族  近藤かすみ