海軍カレー」食べながら飲む一ぱいの牛乳は海の霧のつめたさ  金沢早苗



ダイソーの奥の通路に十個ずつサンタクロースは括られている  今井千草



甘苦いのど飴ひとつまろばせて懊悩ふかき表情をする  大橋弘



裏町の造酒屋の白壁にジグソーパズルのごときひび割れ  倉益敬



ひたすらに求められたる恍惚に発酵し始む、母性というは  鶴田伊津



映写機のひかりの粒子あらければ神さぶる原節子伝説  吉岡生夫



冬月の中の兎の耳おもしかつて陽子と言ふ名の意固地  武下奈々子



吹きあがる地下よりの風やはらかき嬰児の髪をふはふは立たす  三井ゆき



しみじみとわが耳あかを見ておりぬ辛き言の葉受けたりしもの  長谷川富市



日本酒の冷やをいつしか常温と呼ぶさびしさも胃の腑に沁みて  宇田川寛之



挨拶にすぎぬ歌評を読まされて寒き路上を缶が転がる  藤原龍一郎



白き鳩土をつついていたりけりただそれだけの午後の恩寵  武藤ゆかり



はつ冬のこころはつかに病みながらわれと枯菊ここに傾く  春畑茜



問われない罰せられない罪を負い獄を出てゆく秋晴れの下  八木博信



まだ少しあるかも知れぬ未来なら汚れた靴も磨いて置こう  野地千鶴



ハイビジョンテレビが映す深海のたこの生活を見てしまいたり  室井忠雄



ああ師走師走師走とたゆき身を励ますごとく師を走らせぬ  中地俊夫



なにごとか呟くごとくをりをりの風に散りくる残り葉あはれ  蒔田さくら子



根津神社の境内にふはり降りてこしとはの暗黒を身にまとふもの  小池光