お前はいつもしづかなアルトかあさんと呼びなづむときお前はいつも  紺野裕子



日本語を縦に書くとき少女らのためらふ気配 中間考査  有沢螢



まばたきをして外燈の消えしのちうつすらと空のまぶたは開く  下村由美子



いつとなく秋の氷雨(ひさめ)となりており忍び入りたる衰えのごと  上原元



逃げるとは難しきこと目を閉じていても光を感じておりぬ  滝田恵水



塗香して焼香したるてのひらの生命線に夜ものこる香  原八重子



前世からの約束のごと猫が来て我の窓辺にねむる十月  守谷茂泰



人のゐぬ廊下に立てば警報器の赤きボタンが押せとせまりぬ  高澤志帆



剥き出しの魂のごと薄闇の廊下にぼうと猫は動かず  大橋麻衣子



地蔵とは眠る赤子をモチーフにしているはずだ わが子眺める  村田馨



トロ箱に並ぶ秋刀魚の輝けり生命はぐくむ海の青さに  宮本しゅん



畑より楽ができると笑いつつ喜寿近くして牛を飼う母  東海林文子



もみぢ照るなだりに凛々と若武者の物見するごと常緑一樹  池田弓子



笛太鼓ギターの音の間の抜けて格差是正をもとめデモゆく  井上洋



犯罪被害者支援寄付金領収書「交際費」欄に貼る迷いし後に  森澤真理



赤文字の自傷行為に手が伸びて買ってしまったこころの化学  津波なつ



人生がもし飲み会の一夜ならしっかり飲んで食べてモト取れ  谷村はるか



純白のドレスの裾をたくし上げ西湖の蝶となれる花嫁  杉山春代