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むわんむわんドリアン匂ひベンタイン市場入口に吸ひ込まれてしまふ 本多稜
大字も字も失せたる集落のアルミサッシのひかりが硬し 武下奈々子
何に怯え構うる我かたなごころまるめて明るき空間仕舞う 佐藤慶子
ふつふつと葱、蒟蒻の煮えてきていまだ終らぬ晩年のあり 若林のぶ
雪原の鶴いとしくてくれなゐを頭(かうべ)に刷けり神は遊びに 渡英子
いっこうに雪の降らない冬が過ぎ偽物みたいな春が来ている 諏訪部仁
回送の電車の中は薄暗く人ゐる如く見ゆる席あり 梶倶認
蝋梅の蝋も溶け出す冬のはて母はこっくり居眠りをする 山本栄子
ひとりよりふたりははるかに孤独なりまはりに誰かゐるとはさみしゑ 水島和夫
クレーンがやさしく過(よ)ぎり暗くする迎えの母がいない園児を 八木博信
いつもより早い時間にきて読める「渡辺のわたし」「海辺のカフカ」 小野澤繁雄
注がるるビールの泡に加齢とふ鈍き重さを感じてゐたり 倉益敬
猿の腰掛けにこしかけゐたりける猿でないものをふかく怖れつ 小池光
娘(こ)の内に人の命の生え初めぬことを知り得て娘と部屋に居る 長谷川富市
(2007.5.29.記)