ピラミッド内四千年の臭気濃く進むことのみ目的となる  藤田初枝



堕ちてゆく恐怖を思ふ上を向き歩かうと唱ひし坂本九の  黒田英雄



のいばらの花に玉なす夕露はニッポニアニッポンの涙なるべし  みの虫



仮通夜は皆無口なり携帯電話(ケータイ)がしきりに鳴りて亡き人を呼ぶ  中川厚子



ひとひねりねぢる相槌うつ女疲れごころのけふはうとまし  竹浦道子



太極拳の足が踏みつつ天津(てんしん)市魯迅公園にちりつむさくら  森脇せい子



紅梅をひととき隠す淡雪よ父につぶされし恋ひとつあり  洞口千恵