オバアサン。幼時の記憶の青空のその先に行くな戦争してる  天瀬夕梨絵



ダンディな団塊世代が語りゐる燃えつきたジョーを置き去りのまま  田中愛



他所の花ひそかに愛でるたこ入道よこよこたてよこまる描いてちよん  田村よしてる



花を食ふコガネムシ千窓を這ふカメムシ千を殺してひと日  永井秀幸



雨のにおいをふくろにつめて寝たならば母の笑顔の夢にあうかも  利根玉惠



容赦なく押し込まれたる車中なり発車の揺れに立ち位置きまる  木村悦子



書道界八十過ぎて君臨すこの善し悪しを作品に問う  森粼佐和子



蝶の吻(くち)薇(ぜんまい)伸びて蜜吸ひついとどはかなきいのちなりけり  坂本能章



ブラウスの釦をけふも掛け違へ送迎車にて戻り来る母  佐藤宏子



ハンガーにあたはぬ淋しきはりがねを衣紋掛けだと母はしまひぬ  薄葉茂



われ太く姉細くなり嵌められぬ互いの指輪を交換する  星理和



鳴神の音のみ聞きし祖父なりき旅に出でては掛軸を買ひ  保里正子



出羽国蝦夷(えみし)の末裔京に着くかかる思ひに駅に降りたつ  五十嵐敏夫



図書館に響く小銭の落ちる音 誰かの言葉を写すコピー機  里川憐菜