回顧される生とはいかに サルバドール・ダリ口髭の極端な反り  生沼義朗



午前五時のTVに美女四人ありて新作菓子を食ふ怖ろしも  酒井佑子



おわらひのビデオ集めを趣味として次女は笑はぬをなごなりけり  大橋弘



母われを忘れて遊ぶ子の背に銀の背びれの揺れいるが見ゆ  鶴田伊津



すかし見るバケツの底のピンホールに真綿つめたる暮らしもありき  寺島弘



氏名年齢国籍に次ぎ部族名(トライブ)の記入欄あるタンザニアの宿  本多稜



梅雨さなか胎児逆(さかさ)に抱きたる娘が吾に茶を入れくれぬ  長谷川富市



文芸に無縁なる生選ばねば傷痕うづく夏空にさへ  藤原龍一郎



蝉の殻あぢさゐの葉のうらにあり歓喜力行団おもひいづ  小池光



星祭りあまたの<やうに>が下げられてをりをり絡み合へる短冊  大森益雄



弱りたるこころを抱いて立つときに白線という処あり  阿部久美



可燃ごみ収集の日の街角に鴉は歌ふ朝のゴスペル  倉益敬



女子便所今日も遺棄され死んでゆく赤ちゃんのため満ちる便臭  八木博信



巨女(おほをんな)がやけに目につく哈爾浜の第一印象を強ひて言ふなら  長谷川莞爾



     兄弟姉妹も子もゐない。
甘夏が目には見えない傷に沁むこの手にふれる最後は誰  多田零



     ヘロデ王の兵のはなし
蝶々のかたちの花弁こぼしつつ金雀枝(えにしだ)もわれも神を畏れず  橘夏生



スカートといふものあれば盗み撮るをとこら後を絶たざるあはれ  中地俊夫