◆『亡羊』 奥田亡羊歌集 


 「心の花」所属で、二〇〇五年に「短歌研
究新人賞」を受賞した著者の第一歌集。三十
二歳から三十九歳の時期の三四〇首を収める。


  言葉にはならぬ思いを聞き役のアナウンサーがすらすらと言う 


カメラ越しの人々の<思い>は、ややもす
るとメディア側の意図する都合の良い<声>
へと容易く変換されてしまうという危惧を、
かつてTVディレクターの職にあった著者は
強く抱いていたはずだ。短歌に出会った彼が、
この定型表現形式に何らかの可能性を感じて
惹かれていった大きな要因がそこにあるので
はないか。実験的手法による「短歌研究新人
賞」受賞作「麦と砲弾」、さらには「受賞の
ことば」を改めて読んでみて強くそう感じた。


  宛先も差出人もわからない叫びをひとつ預かっている 
  底のない柄杓で水を汲むように金(キム)老人は我にやさしき   
  アームレスリング強き選手のこらえつつ骨折るを見てこころ疲るる 


短歌研究社 〒112-0013 東京都文京区音羽1-17-14 音羽YKビル
          電話03-3944-4822 定価2,800円<税込>) 


                                     (伊波虎英)