亦逢はむと言ひて終りし様式の美しきかな亦逢はむ亦  酒井佑子



秋雨に言葉が重し頭(づ)が重し況して見出しに「制圧」の文字  春畑茜



乗りきたるひとが隣に腰かけてかすかに右に尾骨は傾ぐ  多田零



赤とんぼ唐辛子蜻蛉(コチュジャムジャリ)という国のとうがらし文化を思えば愉(たの)し  加藤隆枝



ざらざらと皿かたむけて柿の種頬張ればしばし敗者のごとし  川本浩美



コスモスの揺れ咲く抒情的景に小島よしおのごとき拒絶を  藤原龍一郎



花束を解きて頒けられたりし百合おとろふるころ妬心うすれつ  蒔田さくら子



難解のゆゑに生ずる心地よき刺激たのしも地下の試写室  三井ゆき



「残念」が腹見せるごと口あきし路上の財布をポンと蹴りたり  知久安次



淀川の直(すぐ)なるながれのみなかみを時遡るごとく想ひぬ  吉浦玲子



居酒屋の壁にもたれて仄湿る小池光の厚革の鞄  佐々木通代



言葉だけ光りてこころ伝わらぬ歌集は閉じて晩秋の野へ  西勝洋一



秋の日のしたたるごときかがやきは野の鶏頭のはなを濡らしつ  小池光



食紅の色くすみたる加賀の麩はしばらく舌に遊びつつ消ゆ  西王燦