■
あほとばかの方言地図の境界を越えてつめたきとかいのことば 高澤志帆
クレオパトラカットの女医は聴診器くびかざりにして部屋に入り来る 宮本田鶴子
くはへ煙草の宮崎駿氏「脳みそに釣り糸を垂らす」と腕くみ目閉づ 下村由美子
この人の繰り言ききつつ老けるのか鬼灯の実の赤くぞ熟れる 磊実
竹筆に薄墨たつぷりふくませて一気に画くも円は弛みぬ 山崎圭雪
正月まえの男(お)の子のようなうなじして散髪したての部長かわゆし 平林文枝
両の眼をまなこと呼ぶにふさわしくりんとひらいてともだちがくる 佐藤りえ
張り替へし障子しらしら色あせし畳に夏の光を運ぶ 伊藤冨美代
幾本の支柱をそえて立たせたり立つ気はあらぬ月下美人を 若尾美智子
救いなど永劫来ぬと気づくとき鋼のごとく秋の陽は美し 森澤真理