torae1732008-01-02




◆「私のポスト」伊波虎英


 尼崎、通称「アマ」に住んでいる。市外局番は、大阪
市と同じ06番だが兵庫県。あのJR福知山線脱線事故
があった所だ。


 関西圏外の人には、ダウンタウンの浜ちゃんみたいな
ガラの悪いコテコテの関西人がいる、アスベストが舞う
公害の街、というほどのイメージしかないかもしれない。
映画化もされた車谷長吉の『赤目四十八瀧心中未遂』を
思い浮べる人もいるだろうか。


 残念ながら僕が住んでいるのは、あそこに描かれた阪
神尼崎や出屋敷、大物(だいもつ)といった今でもまだ
下町情緒が残る市の南部、ディープな「アマ」ではない。
阪神沿線より山手の阪急沿線。なんの変哲もない住宅街
が広がるその外れでちまちまと短歌を詠み、下手くそな
字で原稿用紙に書き写しては、ポストに投函していると
いうわけである。  


 街なかなので、ポストは近所にいくつもある。郵便局
にはもちろん、駅前、駅へ向かう途中の産院脇、……。
いずれにも特別の愛着などなく、その時の都合と気分で
利用している。ちゃんと届けばそれでいい。 

    
 安心度で言えば、郵便局の前にあるポストが一番か。
収集のし忘れはまずないだろうし、営業中は、明らかに
六十代後半とは言え、警備員が表に立ってくれている。
強盗やひったくり対策としての効果がどれほどあるかは
甚だ疑問だが、ポストにいたずらされる心配は他より少
ないにちがいない。


 でも、面白みに欠けるのもここが一番で、歌に詠んだ
り写真に撮ろうとは決して思わない。駅前のポストも、
似たり寄ったりでつまらない。産院脇のポストはかなり
魅力的で、歌にしたことも何度かあるのだが、今回は、
歌稿を投函して最も不安な気持ちになるにも関わらず、
ついつい利用してしまう別のポストをカメラにおさめて
来た。


 Pachinkoのネオンサインがわかるだろうか。ちょうど
ポストの正面に、パチンコ屋の裏手の入口があるのだ。
入口に近い台の足元には、客寄せのためか、いつもドル
箱が積まれているのが通りから見える。こんな所で出る
んかいなと思うが、駐輪場は結構埋まっている。いつか
ボロ負けした客が腹いせに、火を点けたスポーツ新聞を
ポストの投函口に放り込まないか気が気でない。


 それより、なんだかポストがそわそわしているように
見えるのは気のせいだろうか。


 ポスト君。頼むから、大切な歌稿を懐に入れたままパ
チンコに行かないでくれよ。