老舗「虎屋」あなたを信じていますから黒地の暖簾わけて入りゆく  金二順



マフラーの房をゆたかに君の背は圏外のやや内側にあり  篠塚涼



500系のぞみに兆す離陸への意思伏せられて浜名湖を過ぐ  斎藤寛



マナーモードばかりの部屋に言霊は盈ちてしづかに秋雨の降る  三島麻亜子



たけ高くここに狂へるものすがし秋の川辺ににほふ菜の花  脇山千代子



霜月の朝はガーゼを通し見るそんな優しい景色に出あう  利根玉惠



野仏のまぶた閉ざせるそのむかし彫師の鑿に光はさせり  佐藤あきら子



好きなんだベルト・モリゾのかいた絵は「青」のすべてを知りつくしてる  上村駿介



自らの顔を忘れる事ありて日に幾度か鏡を覗く  田端洋子



何ごともなくて平成十九年 美智子皇后老いられ給ふ  佐久間巴



小包に十七文字の文添えて八十路の母の愛あふれおり  直井美代子