東京にオリンピックを欲る者は行けや昇れやエスカレーターの右側  谷村はるか



おおいなる団子虫なるか団塊と名づけし奴が気に喰わぬなり  青柳泉



一杯の珈琲のためベートーヴェンの数へし豆の六十三粒  竹浦道子



陽だまりを掌に掬うごと住み継げる集落のあり一月の谷  守谷茂泰



薄紙にて包み込むように三歳は日になんどでもいもうとを抱く  平林文枝



木漏れ日が脚に絡むとよろめきてしがみ付きたる妻を愛(いと)しむ  関根忠幹



たまに来し中年の息子わが顎のほくろの白毛不意にぬきくるる  吉岡喜代子



舌を出しまた引っ込めて老い母はひとひを過ごす車椅子にて  青柳泉



釣りをする老夫の背中わたしには見えぬ糸垂れ猫が列なす  大橋麻衣子



北海と書いたら道にマルをするひとつしかないけどマルをする  松木



満開の桜の森の下にいて狂いしわれは刃をふるう  津波なつ (2008.1.25逝去)