幸も不幸もよみかた次第あしひきの鞍馬は天狗鞍馬は体操  小池光



篤姫宮崎あおいの横顔はさつきのニュースのライス長官  椎木英輔



蛇口に口あてて飲みたし戦いに敗れただけのボクサーになり  八木博信



放埓のこころほのかにきざしたる夕、手離しで自転車に乗る  鶴田伊津



廻しみるカレードスコープの花明かりこの世のわれの内側照らす  明石雅子



分岐器を乗り越えてゆく電車ありその分岐器を保守(まも)るおとこら  村田馨



すばらしき他人の歌を読むたびにあたまのなかにノイズが混じる  橘夏生



交点に石を置かむと手はゆれてふたりむきあひ囲碁するところ  神代勝敏



品格ある狸がをりて居ねむりをしてゐるうちに瀬戸物となる  小池光



亜熱帯性驟雨降る首都圏の何に苛立つ雨かと思う  藤原龍一郎



歳時記のならぶ書棚に春の巻一冊分のすきまがありぬ  加藤隆枝



太木と思いてわれに抱きつけとナースはこの身受けとめくれぬ  宮崎郁子



続けざまヘア・カットをこなしをり御首級(みしるし)あげし過去世かさねて  倉益敬



鳳仙花ぱちぱち弾け素足なる少女のわれは草だったのか  関谷啓



あやとりの糸絡ませて母を恋う うしろの正面だあれもいない  卯城惠美子



さびしきひとが折りたる鶴か嘴のぴんと尖りてむらさきの鶴  高田流子



ダイレクトメール数多の投函は賭け事めいて動悸の激し  宇田川寛之



時々の花を借りきて箔を付くいやらしき北の短歌集団  西勝洋一



日の丸はうつくしからずと思ふまで心ねぢれてオリンピック見る  中地俊夫



父へ詫び母親へ詫び夫へ詫び盆はかなしき身のおきどころ  三井ゆき

                                                        (2008.11.8.記)