袖無しのワンピースから伸びる腕むじやきな人が君に近づく  大越泉



一輛目前部に見をればわが町の駅ははかなく灯りておりぬ  伊藤冨美代



異人屋敷の坂道のぼるパラソルのひとつ発火す夏の夕暮れ  有沢螢



おほひなるおほひなる手が抱くとき熟れし西瓜の重さか地球  下村由美子



もぎたてのトマトの匂うざる掲げ妻は戦果を高らかに告ぐ  渡辺未知也



ど根性雑草などとは言われずに数多の草々アスファルトに生ゆ  小田倉良枝



仏壇の鈴(りん)の音聞こえすこやかな朝来たるらし隣家の老いに  竹浦道子



蝉の穴見つめて在ればしずけさにわが一日の吸われゆくなり  守谷茂泰


                                                        (2008.11.7.記)